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最後の恋

第6章 くちづけのさき


電車で3時間ほどの温泉街へ出掛けた。まだ肌寒い、3月のことだった。

古めかしい特急電車に揺られながら、やがて車窓には知らない町並みが流れ始めた。

ふと彼の腕が、私の腰を抱き寄せた。駆け落ちみたいだね。私の耳に口許を寄せて囁く。

どこの世界に往復切符で駆け落ちする人がいるんですか、と言いながらも、私は目を閉じ、彼に身を任せた。

宿に着き、部屋の説明を終えた仲居さんが退出すると、その足音も遠ざからぬうちに、彼は私を抱きすくめた。

私も彼の首にぎゅっと腕を回し、夢中で唇を重ねた。

彼はそのまま、畳に私を押し倒した。

下だけ脱がすよ、と言うや、彼は私の足からジーンズを抜き取り、自分も膝までズボンを下ろした。

もどかしい手つきでゴムをつける彼を、私はぼんやり見上げていた。服を着たまま避妊具を着ける姿を初めて見て、何か不思議な心持ちがした。

彼が下着の上からそっと私のそこを撫でた。くるくると円を描くように撫でられると、熱い潤みが染み出てくるようで恥ずかしかった。

濡れてる、と笑って、彼は下着を引き下ろすと、一気に貫いた。待ちかねたように私の中が悦びの声を上げる。

本当に声を上げそうになった私の口を、覆い被さった彼の手が塞いだ。

声出しちゃだめ、と荒い息の下で彼が囁いた。確かに襖を隔てた先で、仲居さんの足音が聞こえる。

私は何とか頷いて見せ、彼にしがみつき、ぎゅっと口を閉じて耐えた。

いい子だ、と彼は口を塞いだ手を離し、私の頭を撫でると、優しく口づけた。

でも優しかったのは最初だけで、すぐに口づけは激しさを増し、口内を蹂躙する。

がっちりと抱え込まれ動けず、唇の端からこぼれた唾液を拭うこともできず、ただ突き入れられる度に腰を痺れさす甘さに酔わされた。

彼の切羽詰まった声が、私の名前を何度も囁く。

その声に、次第に何もかもわからなくなり、襖の向こうのことも忘れ、私は淫らな嬌声を上げた。


声、だめだって言ったのに。

事が終わって私を抱き起こしながら彼は苦笑する。

誰のせいですか、と尖らせた唇に、彼の口づけが落ちた。

駆け落ちみたいだね、という彼の言葉が思い起こされる。

さっきまで確かに私たちは、二人だけの世界に逃げ込んでいたのに。

鞄の中には確かに帰りの切符があり、その後、仲居さんの顔をまともに見ることはできなかった。

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