テキストサイズ

最後の恋

第2章 たべもの


彼は、強い方ではなかったけれど、お酒は好きだったようで、時々二人で飲みにいった。

一時期ラジオのドイツ語講座にはまっていた彼は、ドイツビールが好きだと言っていたが、

ドイツに限らず、ビールはよく飲んでいた。

普段はあんなに甘い飲み物が好きなのに、不思議だな、と私は思っていた。

夏には、期間限定で販売されるフローズンビールも飲んだ。

カクテルで一番好きなのは、ジントニックとシャンディガフで、ビールに飽きるとよく飲んでいた。

私はガード下のような飲み屋や、学生の飲み会で使っていたチェーンの居酒屋も好きだったが、

彼はせっかく行くならと、ちょっとこじゃれた店を見つけては、私を誘ってくれた。

それからテーブル席より、カウンターの方が好きだった。

並んで腰かけて、時々カウンターの下で指を絡めた。

私より弱いくせに、私よりたくさん飲んで、店を出るとふらつくこともあった。

強くないんだから、飲みすぎはだめですよ。

ある時、店を出てからそう言ってたしなめると、彼は、ごめん、と子供のようにはにかんで笑った。

でも、と店先の生け垣の陰で、彼は私を抱きすくめた。

君といると飲みすぎる。

耳元で吐息混じりにそう囁かれ、私にも酔いが回るのを感じた。

私のせいにしないでよ、と言いながら、酔ったせいだから、とどこかで言い訳をして、そのままビール味の長いキスに溺れた。

そのときにはもう、酔いのせいにできないほど、踏み込んでいたことはわかっていたのに、

彼も私もあの頃は、完全に自分の意志でそうなったのだと直視できなかったのだと、

自分達の未熟さは、今になってほろ苦いビールの味と共に思い起こされる。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ