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教団 アノニマス

第1章 罪と罰

佐村に、辛い過去がよみがえって来ていた。

[恩のある人から、警察に任せていても逮捕はいつになるか分からんぞ。

自分で、仇を取ったらどうだ。

そう言われて、探偵になりました]

[ご苦労されたんですねぇ]

法子は佐村に、同情するように声を掛けた。

[すみません、私の暗い話しばかりですっかり酔いが覚めてしまいましたね]

佐村は、またも苦笑した。

[ご家族をなくされたのは、大変な事だと思います。御立派ですわ]

佐村にも、同情される辛さを実感していたのも事実だった。同情されればされる程、

辛い過去がよみがえって来ていた。佐村には、この苦痛に耐える事が出来無い。

咄嗟に、話題を変えようと思い。

[しかし、かなり大きな大邸宅ですね。この広い御自宅に一人で暮らしてるんですか?]

佐村が、周りを見渡しながら訊いた。

[この家は10年前に建てましたが、主人と離婚してからは一人暮らしで]

[でも毛瀬さんのような美人の奥様が、一人とはもったいない]

[結婚当初は幸福でこの家を建てましたが、夫が事件を起こして会社を解雇され、

盛一族から追い出されてしまったのです]

法子の表情に、悲壮感が漂った。

[御主人の事件とはどういう事情でしょうか、差し支えなければ訊かせて下さい]

法子は身内の恥じを他人に晒したくはなかったが、いずれは話さなければと考え

意を決して打ち明ける事にした。

[別れた主人の名前は、湯田幸吉と言います。湯田も盛不動産に勤めていました。

都内の大学を卒業して、入社しました。営業課に所属して、どんどん顧客と契約して

とても成績優秀な社員だったのです。良い時は、社長賞も授賞する程でした。

義兄も湯田を、大変可愛いがっていました。

ぐんぐん成績を伸ばした湯田は、入社3年で営業係長、そして、入社5年目で経理部長に

抜擢されました。

湯田は、スピード出世で会社の番頭になったのです。

まさに、湯田は盛不動産の金庫番だったのです。

ある日、経理部内で部下の横領が発覚しました。

部下は即刻解雇にしましたが、湯田が早目に気付き損害額は少額でしたのでそれ程

大事には至りませんでした。

社の損害を防いだと言う事で、またも社長賞を授賞したのです。

でもこの時、湯田は有頂天になっていました。

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