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教団 アノニマス

第1章 罪と罰

ある日、愛留が店内で客の指名を待っていると、店員が呼びに来た。

部屋を出ると3人の男達が立っていて、その中の一人の男性に見覚えがある。

公園で見た、明石海人教祖その人であった。

「マグダラのマリアよ、今日貴方を迎えに来た。イエスの妻よ、よき伴侶」

教祖に、キリストを見た。

「神ヤハーベのお告げにより、迎えに来ました。共にエルサレムへ行きましょう」

愛留が頷き店を出ると、教団の車に二人して乗りこんだ。

「お客さん!手数料を払ってから店外に出て下さいよ」」

店員が大声で叫びながらあとを追いかけて来たが、車は遥か彼方へと走り去った。

店員の男は呆然と、その場に立ち尽くすしかなかった。

車は都内にある、品川区の教団アノニマス本部へと向かった。

新興宗教、インターネット宗教団体教団アノニマスの明石教祖の誕生であった。

晴れて愛留は、教団アノニマスの副代表になったのだ。

盛愛留は、神に依って救済されたのである。

娼婦から宗教団体のトップ2へ……これが神の導きである。

生まれて初めて、生かされている喜びに浸る事が出来たのだ。

突然、秘書の三上がドアを開けて車から下りた。

愛留が外を見てみると、一人の初老の男性がこちらに向かって歩いてきていた。

高さ1メートル、横幅40センチ程のボストンバッグを引き摺りながら、三上と対峙した。

ヘアースタイルはオールバックで、それ程身体は大きくなく、155センチ位であろうか。

三上が初老の男性の前で、何度も会釈をしている。

今度は秘書が代わりにボストンバッグを持ち、初老の男性はこちらに向かって歩いてくる。

そして、後部座席のドアを開け、愛留の隣りに座った。

三上がボストンバッグを車のトランクルームに入れると、運転席に戻ってエンジンを掛けた。

「私は、伊佐屋グループの取締役社長、伊佐屋豊と言います。以降宜しくね」

伊佐屋社長は、都内に幾つものチェーン店を持ち、総資産5000億円の都内でも指折りの名物社長だった。

盛達三氏が不動産王とすれば、伊佐屋社長はフランチャイズキングであろう。

しかし、日本がバブル絶頂期に時代の寵児と言われた二人だったが、バブルの崩壊と失われた20年に依り、二人の社長は色褪せて見えた。






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