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教団 アノニマス

第1章 罪と罰

愛留は、伊佐屋社長の自宅がある池袋に来ていた。

伊佐屋社長の自宅は百坪程あり、3階建ての外壁は真っ白で地下室まである。

庭は無かったが、一人で住むには充分な広さだった。

愛留の部屋は3階にあり、室内は12畳程のワンルームになっていて、快適に過ごす事が出来た。

一階のキッチンルームでは、秘書の三上が全ての料理を作って、3人で食事をしていた。

社長が自宅にいる時は、地下室で寛いでいた。

此処には趣味のオーディオ機器があり、スピーカー、アンプ、CDプレイヤーは全て海外製だ。

社長は大の音楽ファンで、クラシック音楽をよく聴いていた。

曲はマーラー作曲、交響曲第九番ニ長調である。

マーラーは、1860年に生まれて1911年に死去した音楽家だ。

マーラーの交響曲は全部で11曲あり、皆1時間以上の大曲である。

昔のSPレコードだとデイスクが7枚程あって高価で手がでなかったが、IPレコードになってからは1枚のデイスクに収録される様になった。

その為、誰でも手軽に聴ける事が出来た。

今から40年前は、正しい評価は出来ていなかったが、正当な評価をしようと考えられたのがマーラーブームであった。

欧米では1960年から始まり、日本でも1970年から始まった。

現在では正当な評価が出来ているが、現代音楽のストラビンスキーやバルトークなどはまだ正当な評価がされておらず、

今の所、30年はかかるだろうといわれている。

マーラーの第九交響曲は1910年、49歳の時に完成されている。

社長はよく、第四楽章を聴いていた。

この楽章はよく、自身の死を表していると揶揄されている。

19世紀末期のヨーロッパでは、死についての議論が頻繁に行われた時代であった。

画家のジークムント-クリムトや文学者のホフマンスタール等、多くの芸術家が死を題材にした作品を創造した。

マーラーも、その一人だった。

この楽章には、死に対する恐怖と怯えが表現されているのだ。

社長も60歳を過ぎて老いを感じ、死が近づいた人間の悲哀と共に、この交響曲に何かを見出したのかもしれない。

愛留はこの自宅から、学校に通学する事になる。

その夜、愛留がベッドの上で目が覚めた。時計を見ると午前1時を過ぎている。





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