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教団 アノニマス

第1章 罪と罰

店内の棚の隅に小さな液晶テレビが置いてあり、画面にはアダルトビデオが流されていて、

女優の喘ぎ声が小さく聞こえてきて、耳が痒くなった。

「私が来たのは、湯田さんと真里麗佳さんが同棲していると訊いたのですが

それは、本当でしょうか?」

単刀直入だと思ったが。

「それは、盛社長から聞いた事では?」

湯田が、ニヤッと笑った。

「私が馬鹿な事件を起こしてからは、一度も会ってはいません。私が馬鹿だったんです。

あの女に何億円と貢いでしまって。

盛社長から可愛いがられ、経理課長までして貰ったのに、恩を仇で返してしまいました。

私はもう、2度と社長に顔向け出来ない男なのです。

2度と、真里麗佳の顔は見たくもありません」

今までと違って、苦渋に満ちた顔をした。

佐村が、疑問に思った事を口にした。

「1つ聞きたい事があって、どうして盛由紀子さんとその妹である毛瀬法子さんが

姉妹でありながら、苗字が違うのでしょうか?」

「盛由紀子は盛財閥の娘、盛正左ェ門と盛ヨネの実の子供ですが、毛瀬法子は

正左ェ門の愛人、芸者の毛瀬華子との間に生まれた子供なのです。

毛瀬法子は、盛一族の日陰の子なんです」

「芸者の毛瀬華子!」

佐村に、ある記憶が蘇ってきていた。

「毛瀬華子という人は、1970年代始めに都内でも売れっ子芸者として、

華奴という名前で、歌手デビューをしていました」

佐村の記憶には、子供時代にテレビの歌番組に出演し、和服で歌っている姿を思い出した。

「という事は、毛瀬法子さんは婚外子?」

「ええ、自分自身も日陰の子ですから、同じ境遇である愛留が不憫だったと思います。

よく愛留を可愛いがっていましたから。

人間、健康と財力があればやる事は1つなんですね。この店と同じですよ、

男と女の騙し合い。

これが、世の中なんでしょうかねぇ。ハッハッハッハッ」

湯田は裸の女性が映っている、大きなポスターを見て笑った。

「実は法子さんから依頼を受けて来たのですが、湯田さんさえ良ければ

復縁をしても良いと言伝を頼まれまして……。

湯田さんのお気持ち1つだと、思いますがどうでしょうか」

少し、視線を落として湯田に聞いてみた。


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