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教団 アノニマス

第1章 罪と罰

「急に言われても返事に困りますが、私は事件をおこし5年以上刑務所に服役していた

人間です。何より夫として法子を裏切った最低な男です。

法子が許しても、私の心が許さないんです」


「でも、法子さんは今でも心の底から貴方を愛しています」

「佐村さん、法子に伝えて貰えませんか。

己の気持ちの整理がつき次第、私の方から復縁を。

それまで、待って欲しいと……」

湯田は、懇願する様な瞳で佐村を見た。

佐村は黙って頷き、天井を見上げた。

天井に貼られているポスターの若い女子が、天使の微笑みを浮かべている様だ。

また佐村は、視線を湯田に戻して。

「閉店の時間ですので、ありがとう御座いました。

湯田さんの事を、法子さんに伝えさせていただきます」

湯田が、寂しそうに俯いた。

壁の時計を見ると、ぴったり午前二時を差している。

佐村が、帰ろうとすると。

「法子は、元気ですか?」

湯田が、弱々しい声で呟いた。

佐村が振り返って見てみると、湯田の瞳が潤んでいる様に見えた。

己の犯した罪が年齢を重ねるごとに重みを増して、罰の重圧に苦しむ事になる。

イエス-キリストは、人は罪の子であると言っていたがある意味本当なのかもしれない。

佐村が店を出ると、流石に辺りは闇に包まれている。

ふいに、湯田氏の言った事は本当であろうか?

自分の眼で、確かめるしかない!

「自分の直感を、信じるだけだ」

そう呟くと、店のネオン看板が消えた。

「閉店だ!」

咄嗟に、電柱の影に隠れた。探偵としての血が騒ぐ!

すると、湯田がショルダーバッグを肩から掛けて店舗から出て来たのだ。

湯田に気づかれないよう、あとから尾行した。

何年振りの尾行であろうか、このスリル感が堪らない。

息を潜めながら、神経を研ぎ澄ませる。

湯田の自宅は、歩いて30分程の場所にあった。

湯田の後ろ姿は少し猫背で、歩幅は狭く俯き加減でどちらかと言うと、

早足で歩きつつもスピードは極端に遅いタイプだった。

いつの間にか、路地裏に入ると街灯は全く無かった。

そのうち、左てに二階建てのアパートが見えてきた。





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