テキストサイズ

教団 アノニマス

第1章 罪と罰

湯田がそのアパートに向かって歩くと、アパートの外階段を上がって行った。

一番端の部屋のドアを開けると、その中に入った。

建物自体は古く、築40年以上経っているように見えた。

ドアに磨りガラスが小さく嵌め込まれて、部屋の灯りがつくと磨りガラスも

オレンジ色に灯った。

佐村もその一部始終を見ていたが、やはり1人暮らしの様だ。

「部屋の中に、彼女はいないな」

と呟き、戻ろうとした時だった。

反対側の車道から、1人の女が歩いてきていた。

佐村がじっくり見ると、30代の若い女だ。

すぐスマホを取り出し、シャッターボタンを押した。

女は気づかぬまま、アパートの外階段を上り湯田の部屋の前に立った。

小さくノックすると、ドアが外側に開き女がその中へ入った。

恐らくドアを開けたのは、湯田氏本人であろう。

撮影したスマホの画像を観ると。

「やはり、真里麗佳か!」

盛社長の、言った通りだった。

二人は同棲しているのか?湯田氏は嘘をついたのか?

しかし、それは間違いに気づいた。

時間にして5分程だろうか、またドアが開き真里麗佳だけが出て来たのだ。

階段を下り、来た道を戻るように歩いた。

今度は真里麗佳の後を、佐村が尾行する。

思いきって後ろから、佐村が声を掛けた。

「真里麗佳さんですか?ちょっとお話しを!」

麗佳が急に立ち止まり、振り向きざまに佐村の顔を見たとたん、いきなり

脱兎のごとく逃げる様に走り出した。

「ちょっと、待って下さい!」

大声で叫んだ佐村だったが、麗佳はハイヒールにも関わらず、

かなりの速いスピードで逃走している。

そして、少し広い道路に出た所で、麗佳の前に黒いセダンの乗用車が滑り込んで来た。

助手席のドアが開くと同時に、麗佳が素早く乗り込み車は、急加速して行った。

その後に佐村が息を切らせながら、走って来たのだが遅かった。

佐村は、顎を上げたままその場にへたり込んだ。

久し振りに全力疾走したので、大きく荒い呼吸をしている。

「だけど凄いな、ハイヒールであの速さは尋常では無いな」

佐村が、吐き捨てる様に言った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ