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教団 アノニマス

第1章 罪と罰

佐村にも、由紀子の気持ちが分かるような気がした。

[でも、一番可哀想なのはお子さんですね]

[やはり、どうしても姉と愛留が顔を合わせてしまうと喧嘩になってしまうものですから]

[お子さんは、いつも何処にいますでしょうか?]

[よく原宿の、表参道を歩いているようです。こちらに、写真がありますわ]

法子がそう言って、高価なブランドバックから1枚の写真を取りだし、テーブルの上に置いた。

佐村が写真を良く見ると、あどけなさの残る可愛らしい少女が、こちらを見て笑っている。

瞳が大きく、顎が小さく尖っていて、鼻は小鼻が立っている。

達三とは余り似ていない、どちらかと言うと愛人の真理杏に似ているのだろう。

佐村が、写真をテーブルの上に置いた。

[連れ戻して頂ければ、報酬は幾らでも払いますわ。是非!]

法子が、深々と頭を下げた。 

[必ず盛愛留さんを、毛瀬さんの御自宅に連れて参ります。ご依頼、ありがとうございました]

座ったまま佐村が頭を下げると、法子がソファから立ち上がり、一礼をした。

そして、しなやかに身体を反転させると、大人の色香を漂よわせながら静静と摺り足で玄関から出て行った。

身のこなしはまるで、花魁のようでもあったのだ。

佐村がまじまじと、写真を眺めた。

[見た事無いな、中川さんに訊けば分かるかもしれない]

すると、アシスタントの余羽美樹が傍に来た。

[すこしお話がありますが、私に休暇を下さい]

驚いて、美樹の顔を見た。

[何かあるのか?]

佐村が、聞くと。

[私は宗教団体に入信していますが、教祖の講演会に出席したいので2日ばかり、有給休暇をください]

[その宗教団体というのは?]

[インターネット宗教、教団アノニマスです]

[ネット宗教、アノニマス---]

佐村も、知らない宗教だ。

[大丈夫なのか、その団体は。霊感商法みたいに、高い札や坪を買わせるとかの怪しい宗教じゃないか?]

怪訝な顔をした佐村だが、美樹がスマホの液晶画面を見せると。

[これが、教団アノニマスの聖書なんです。電子書籍になっています]

[これは、キリスト教の聖書じゃないかな?]

[教団アノニマスの明石教祖が、新訳聖書を基にして作成された聖書なんです]

[ふーん、電子書籍の聖書か。でも何だか、怪しいなあ]


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