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教団 アノニマス

第1章 罪と罰

突然、佐村のスマホに着信音が鳴り、その音で飛び起きた。

咄嗟に腕時計を見ると、午前2時を過ぎている。

「しまった!どうして寝てしまったんだろう」

慌ててスマホを取り出し通話ボタンを押すと、相手は伊佐屋社長の秘書三上だった。

「初めまして、社長がご相談したい事がありますので、自宅に来て頂けないでしょうか?」

「何故、私の電話番号が分かったのでしょうか?」

「盛社長から訊きました。もうすぐ事務所前につきますのでお待ち下さい」

そこで、電話が切れた。

まだ頭が、ボーとしている。

この時,初めて気づいた。

「そうか!ケーキの中に睡眠薬が入っていたのか。

あの二人は大丈夫だろうか?」

佐村に、一抹の不安がよぎった。

ゆっくりとソファから立ち上がり、洗面所に向かった。

顔を洗い目の前にある鏡で自分の顔を観てみると、酷く疲れた顔をしている。

そして、無精髭に白髪が生えている。

もう若くは無いさと思ってみても、年は取りたく無いと反発する自分もいる。

シャワーを浴びると、湯水が心地よい。

まるで、全身の細胞が覚醒するようだ?

シャワー室を出ると、応接室で何やら音がした。

バスローブを羽織りそこに行って見ると、二人の親子が立っている。

佐村は、驚愕した。

そこに立っていたのは、殺害された妻君香と息子健人だったからである。

「君香、健人会いたかったよ!パパが守ってやれなくて御免!

お前たちの事は、一度たりとも忘れた事はないんだよ!」

佐村の瞳から、大粒の涙が零れている。

そして、二人の親子は姿を消した。

「お前たちを殺した犯人が判ったんだ!必ずパパが捕まえるからね。

パパがお前たちの仇を取るよ!」

大声で叫んでみても、この侘しさだけはどうにもならない。

無力な自分が、惨めだった。

その時、車のクラクションが鳴った。

「きたか!」

外を観てみると、既に一台の黒いベンツが止まっている。

急いで着替えて、ベンツに近寄って行った。

運転席の窓が開き、若い男がそこから顔を出した。

「佐村さんですか?」

佐村が、黙って頷いた。

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