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教団 アノニマス

第1章 罪と罰

明石教祖が、遠くを見て。

[3年前、私がまだ教祖になる前に、新たな宗教団体を創設する為、仲間3人と宣教をして

いました。キリスト教の聖書の教えを基にして、独自の聖書作成の完成に至ったのです。

この聖書を持ち、コジキのようになりながらも、全国を渡り歩きました]

当時、教祖がいくら呼び掛けても誰も聞く人間などいなかった。

雨の日も風の日も、寒い日も暑い日も人々に訴え掛けた。しかし、必死に訴えれば訴える程

人は離れていった。

仲間も1人減り、2人減り、とうとう最後は教祖1人になってしまったのである。

教祖の活動資金は底をつき、ホームレスになってしまった。

やっとの事で、東京に戻って来たのだが、食べ物もなく公園のベンチに座ったまま動けなく

なってしまったのだ。

教祖は、絶望した。

[喉が乾く、乾く----]

教祖が、小さく呟いた。

キリストが十字架に掛けられた時も、渇いていたのかもしれない。

教祖の瞳は虚ろになり、気が遠くなるのを感じた。

キリストの最後そして、明石教祖の最後---。

太陽が、容赦なく照らしつづける----教祖の身体全てを燃やし尽くすように----。

その時だった、動物の生存本能だろうか、教祖に、激しい慟哭が込み上げて来た。

どんどん、突き上げられる衝撃があった。

虚ろな瞳に映ったのは、まだ若い母親と5歳程の小さな子供の姿が陽炎のように

現れたのだ。

死神なのか、親子が冷たい視線で、教祖を見詰めている。

本当に、怨めしそうに----。

教祖にとって、この光景が一番の恐怖だった。

その恐怖から、逃れる為に。

[俺を殺せー❗殺せー‼]

思い切り叫ぶと。

[もうどうでもいいや、俺は死ぬんだ。もう終わりなんだ。うっひひひひひひひ]

狂ったように笑うと、また激しい慟哭が突き上げて来た瞬間、天に向かって叫んだ。

[エリ、エリ、レマ、サバクタニ。

神よ、何故私を見捨てになったのですか----]

死に物狂いで叫んだところ、どうした事だろうか。

今まで空腹で苦しかったひもじさが、突然消えてしまったのだ。

何も食べてはいない筈なのに、お腹が満腹だ。

口から、ゲップも出た。ゲップが出たのは、何日振りだろうか。

明石教祖は、神によって癒されたのだ。

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