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ぜんぶ二人ではじめて

第40章 関係性

side 七海

ヤスくん家からじいちゃん家に行った。父さんたちが帰る頃、家に送ってくれるってことで、じぃちゃんとばぁちゃんは、今、買い出しに出かけてる。

私は家から見えるヤスくん家を今は見たくなくて、散歩に出た。

ヤスくんと過ごした時間を思い浮かべる。

楽しかったのに。
あんなタイミングで帰るって言ったら、引き止めてくれると思ったのに。

…桜…もう、終わっちゃうなぁ…

一人でのんびり山の方に向かう。

もう少し行くと、たくさんの桜が下に見える場所がある。

昔…父さんと母さんと一緒に来た場所。

この山はじいちゃんの山だから、父さんがベンチやらテーブルやらを設置した。

一番のお気に入りのベンチに座って、下を見下ろす。

桜が風で少し散ってくのが見える。

「きれー…」

空の青と桜のピンク…桃もまだ咲いてて、少し濃いピンク…

コントラストが綺麗だった。

切なくなる。

胸のあたりがギュッとなる。

「…」

誰かに呼ばれた気がした。

「市川?」

「え?」

声はたしかに聴こえて、振り向くと、

「竜一くん!」

「どうした?一人?」

「うん。竜一くんこそ、どうしたの?」

「買い物の帰り。」

「そうなんだ。私はお散歩。」

「こんなところまで?」

「うん!じいちゃん家近いの。ここからの眺めがすごく好きなんだ。」

「俺も行っていい?」

「うん!」

いつのまにか出てた涙を竜一くんに気づかれないように拭った。

竜一くんが自転車を止めて、近づいてきた。

「…うわ!マジすごっ!」

「でしょー?たくさんの桜が下に見えるんだよ!すごいよね!?」

「あぁ。マジですごい!全然知らなかった。」

「竜一くん家ってこの近くだよね?」

「あぁ。この道下りたらすぐだよ。」

「そっか。」

「ここへはよく来るの?」

「最近は来ないかな。子どもの頃はよく父さんに連れてきてもらってたよ。このベンチとか、父さんが設置したの。」

「そうなんだ!?あ!この山って、もしかして市川の家の?」

「うん。」

「すげぇ、金持ちだよなー。良いなー。」

「必要ならこの山も住宅地用にしても良いって言ってたけど、なかなか需要がないからねー。」

「そうかぁ。…ん?雨?」

ポツ…

手に雨があたった。

「ほんとだ。早く帰ろ!」

「通り雨だろ。」

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