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神様の願い事

第4章 誤解



顔でも洗っているのだろうか。
洗面所からは水の流れる音がしていた。


翔「...なにしてるの?」

智「や、ちょっと気持ち悪くて」


顔を洗ったのか。その顎からは水滴が滴り落ちている。


翔「悪酔いした?」

智「そういう訳じゃ無いけど。...汗でもかいたのかな、スッキリしたくなっちゃってさ」


顔の水滴も拭かずに耳や首を丁寧にタオルで押さえてた。
襟元も濡れているし、その部分も洗ったのか。


翔「...何かされた?」

智「え?」

翔「編集長。さっき、何されたの...」


顔を拭いて、スッキリしたのかと思えばタオルを濡らし始めた。
そのタオルをぎゅっと絞り、胸元をゴシゴシと擦る。


智「なんもされてないよ(笑)」

翔「こんな真っ赤なのに?」


ゴシゴシと擦る手を止めてやると、その胸元は真っ赤になって。
よく見ると、さっき押さえていた首も赤くなってるんだ。


翔「擦りすぎだよ、痛いでしょ」


智くんは、鏡越しにぎこちない笑顔を浮かべながら話してた。
その背後から智くんの手を取り、鏡に映る智くんに話しかける。


智「だから汗が、気持ち悪くて...」


智くんは俺から目を逸らせない。
まるで蛇に睨まれたカエルのように、微動だにせず俺をじっと見返す。


翔「...かいてないけど」


擦っていたのと反対側の首に手を伸ばしても、汗なんて少しもかいてなくて。


智「ふ、拭いたからだよ」

翔「ふうん...?」


智くんは言わないんだ。
こんな事をされた、困ってたんだどうしよう、なんて頼って欲しいのに。


翔「耳も?」

智「う、うん。拭いた」


だから反対側の、拭いてないであろう首元に顔を寄せた。


智「っ」


鼻を擦り付けて匂いを嗅いでも、汗臭くなんて全くしないし。


翔「智くんの香りはするけど、汗の匂いなんてしないよ...?」

智「だから、拭いたからだって...」


言えばいいのに。

気持ち悪かったんだ、だから拭いてたんだと。


翔「貸して。拭いてあげるよ」


まだ拭いている途中だった赤くなった胸に手を伸ばす。

智くんの身体は少し強ばったけど。



だけど言わないつもりだろ?

汗をかいたからだと、言い張るんだろ?



だったら俺が、その汗を拭い取ってやる。







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