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神様の願い事

第4章 誤解

《sideO》



智「い、痛...、翔くん痛いって」

翔「だって気持ち悪いんでしょ?」


鏡に映る翔くんは、俺の背後から顔を覗かせ俺の胸元を見る。
俺はと言えば、そんな翔くんにどう対応していいのかわからずに鏡に映る翔くんを見てた。


翔「もう、スッキリした?」

智「うん...」


その翔くんは顔を上げ、俺の横顔を見た。


翔「顔も?」

智「え?」

翔「顔も汗かいたの? まだ濡れてるよ」


俺の顎から滴り落ちる水滴。
それを翔くんはそっとタオルで拭って。


翔「ここは...?」


かと思えばその掌で俺の頬を包んだ。


翔「ここも、気持ち悪いんじゃないの?」

智「え...」


頬を包んで、グイッと顔を翔くんの方へ向けられる。
バチッと合った目は、少し細くて。

心配しているような、怒っているような。


翔「拭いてあげるよ…」


そう言うと、頬を包んだ手はそのままに器用に親指だけ動かして俺の唇を擦った。


智「だ、いじょうぶだって」


その力は思いの外強くて。
最初は少し擽ったかったけど、痛みを感じる程にゴシゴシと擦ってきた。


智「痛いって…」

翔「まだキレイになってない」

智「そこは本当に、大丈夫だから」


キスなんてされちゃいない。
しっかりと腕を伸ばして距離を取ってたんだ。

“触れて”と言った事で、耳や首には触れられてしまったけど、それも全ては自分のせいだし。

なのに気持ち悪いとか編集長には失礼極まりないけど、だけどキスは本当にしてないんだ。


翔「どう大丈夫なんだよ」


だけど翔くんは疑ってる。

細めた目はやはり怒っているようで、翔くんの瞳はすっかり据わってるんだ。


翔「じゃあ、痛くないように拭くよ」


ゴシゴシと擦っていた指を止め、俺の頬を両方から挟んだ。

すると、その据わった目が近付いてきて。


智「...っ」


後退りをほんの少しだけ出来たけど、それもたった数センチだ。


それもその筈。


だって、その威圧に押されて俺の足は固まってしまったんだから。






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