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神様の願い事

第1章 不思議な噂

《sideN》




なにこの黒い塊。



足元が温かくなったなと思って下を見たら、黒い塊が俺の足に張り付いてた。
しかもそれはもぞもぞと動く。


和「なにお前」

「そっちこそなに」


塊がしゃべった。

塊は俺を見上げる。
そのしなやかで真っ黒なフォルムから、たぶん目だろうと思われるものが光る。


「呼んどいてそれは無いんじゃないの」

和「は?」


初対面なのに俺の足にスリスリと体を寄せる。
面倒くさそうな口調のくせに、甘える様に俺を見上げるんだ。


和「なんでお前しゃべれるの? ってそもそも呼んでないんだけど」


ひょいっと抱き上げたら、それはまぁ軽くて手触りが良くて。
そいつの両脇を持って俺の目線に合わせると、体は脱力しちゃってて腕も足も尻尾までだらんとなって。


「僕を探してたんでしょ? 君はどんな願いがあるの?」


その丸い目だけを光らせて俺に聞くんだ。


和「え? なにまさか」

「神様だけど」


あ?


和「猫じゃん」

「まあ、そうだね」


そうだねってか、猫じゃん。
猫だろ。どう見ても。


和「神様なの?」

「そうだよ?」

和「本当に?」

「んだよお前ら。ったく呼んどいて疑うのやめてくんない?」

和「はあ、すんません」


にわかには信じられない。
そもそも神様も信じてないけど。


「君が神様とか信じるなんて思わなかったよ」


一か八かもし本当なら、ひとつお願いをしようかなと思ってたんだ。


「言ってごらん? 聞いてあげるよ、君のお願い」

和「ああ、ハイ」


俺も馬鹿が移ったのかな。
感染しないように気をつけてたのに。


和「ねえ」

「ん?」

和「これ夢?」


夢なら俺は馬鹿じゃない。
相葉さんがあんまりうるさいから、少し気になってヘンな夢になっただけだ。


和「いて」

「夢じゃないでしょ?」


腕を引っ掻かれた。

痛いし。

俺の目の前で宙ぶらりんのままぶら下がってるし。

夢じゃないみたい。



てことは、やっぱり俺も馬鹿が移ったんだ。






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