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神様の願い事

第5章 混乱

《sideS》


どういう事だよ智くん。

口説く時に使うような店を自分で指定するなんて、馬鹿と言うにも程があるぞ。


翔「ったく、俺らが聞き耳立ててたから良かったものの... 1人だったらどうなってたか」

「聞き耳? って?」

翔「や、だからさ、編集長との」





翔「さっっっ、智くんっ!?」

「へ」


仕事も難なく終わり、自宅に戻っていろいろと考えていた。
昼間に相葉くんに聞いた“口説く時に使う店”というワードが頭から離れなくて、シャワーを終えた今もウロウロと部屋をうろつきながら独り言を話してたんだ。


「あれ?」


自分の身体をペタペタと両手で触り、キョロキョロしたと思ったら鏡を見て。


翔「あ...、なんだ、神様?」


その後ろ姿に、揺らめく尻尾が生えていた。


翔「その姿で来たの?」

「う~ん、そうみたい...」


そりゃ智くんと間違える筈だ。
だって今日の神様は服を来てる。


翔「変身って、服もなの? 今日あの人が来てたのと同じだよ(笑)」

「あ、そうなの?」


いやなんか、変身したら勝手に服を纏っていたんだとか言うけど。


翔「この間、裸だったのに?(笑)」

「今日は服を着たい気分なんだよ」

翔「ははっ、なにそれ」


智くんの行動が心配で、モヤモヤして一人で愚痴を零してたんだ。
だけど、智くんに瓜二つの神様を目の前にすると何故か顔が綻んで。


「何かいい事でもあった?」

翔「え?」

「や、なんか嬉しそうだからさ」


そりゃ嬉しいよ。
さっきまで一緒に仕事をしてたけどもう名残惜しくなって。
それで智くんの事を考えてたんだから。


「...例の人と進展でもあった?」

翔「まあ、進展って程でも無いけど。少しは、ね」


真意は伝えていない。
というか、言えない。隠してると言った方が当てはまるだろうか。


「気持ちは伝えて無いんだ?」

翔「だけど、それでもさ」

「うん?」

翔「いや、それだから、触れられるんだよ」

「え?」

翔「俺の本心を知らないから、あの人は受け入れてくれてるんだと思う」

「そうなんだ...?」


俺の本心を知ったら、あの人は離れて行くかもしれない。

そう思ったら怖くて伝えられないんだ。



情けないと笑われるかもしれないけど、今はこれが俺の精一杯だ。






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