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神様の願い事

第5章 混乱



「好きって言ってない」

翔「うん」

「だけど触れる、だから受け入れて貰える?」

翔「そう」


智くんの姿をした神様は、目線を落とし一点を見つめる。
そしてふと顔を上げて。


「...その触るって何? まさかセフレとか」

翔「はっ!?」


眉を潜めて俺を見たんだ。


翔「馬鹿っ、違うよ」

「あ、そうなの?」

翔「そうだよ! 当たり前でしょ!?」


何を馬鹿な事を。
智くんの顔をしてそんな事を言うんじゃないよ。
驚いて心臓が止まるところだっただろ。


「ははっ、なんだ違うの...」


慌てて否定する俺を見て笑うし。


「そうだよね。翔くんはそんな事、しないよ」


安堵した顔で俺を見て。
まるで智くんがそこに居るみたいだ。


翔「よく分かってるじゃん(笑) スキンシップだよ、只の」

「スキンシップ...?」

翔「...昔はよくしてたんだけどね。でも意識し始めてからなんだか出来なくなっちゃっててさ」

「うん」

翔「でもそれが、また出来るようになったと言うか」

「そっか」


俺を見て優しい笑みを零すんだ。
だけど目尻に寄る皺はなんだかぎこちなくて。


翔「神様も悩み事とかあるの?」

「え?」


下がった眉は、笑っているのに寂しそうに見えた。


翔「こうやってね、するんだよ。スキンシップ」

「え...」

翔「...あるよね、神様だって悩み事くらい。 だけどほら、あったかくなんない?」

「翔くん...」


また智くんになりきってる。
俺を“翔くん”と呼び、あの人と同じ香りを振り撒くんだ。


翔「いつも話聞いて貰ってるからね、今日は俺が癒してあげるよ」


抱き寄せた神様をぎゅっと包んで、背中をぽんぽんと摩ってやる。
すると、ふぅと小さな息が聞こえた。


「こんな事してるんだ、その人と...」


俺に身を任せているのに、薄く開いた目は宙を見つめて。


「いいね... 確かにあったかい...」


その目を閉じて神様も俺をぎゅっと掴むんだ。


「ふふ、翔くんが元気になったのもコレがあったからか... 結構単純なんだね…」


俺を単純だと小馬鹿にし、神様は笑う。


だけどその笑みは、少しぎこちなく見えた。







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