神様の願い事
第5章 混乱
“ぐっと我慢するんだよ”
とは言っても。
ウズウズするものは仕方なくて。
気分を落ち着かせようと顔を洗いに来たんだ。
智「あ」
トイレに入ると、目の前には用を足す翔くんの後ろ姿が。
翔「あ...? 智くんもトイレ?」
用を足し終え、振り返って俺に笑いかけた。
智「あ、や、顔を洗いに」
しまったな。
落ち着かせようと来たのに、こんな所にマタタビが。
翔「ふぅん? 眠いの?」
智「まぁ、ちょっと」
俺の隣に立ち、顔を洗う俺の隣で翔くんは手を洗ってる。
翔「ははっ、凄い勢いだね」
バシャバシャと音を立てて、マタタビの気配を掻き消すんだ。
翔「タオルは?」
智「忘れた...」
“なにやってんの”と笑う翔くんは、ポケットからハンカチを取り出した。
翔「ほら、服まで濡れちゃってる(笑)」
そのハンカチは、俺に差し出されなかった。
ハンカチは翔くんの手に握られ、俺の顔を拭くんだ。
智「じ、自分で出来るよ」
やばいな。
翔「そう?」
智「だから、貸してくれる...?」
距離が近い。
いつもならこんな距離、なんとも思わないのに。
翔「ほら、そこじゃないよ。ちゃんと拭いて(笑)」
智「あ、うん...」
受け取ったハンカチで拭いていたのに、翔くんの手がそれを遮って。
翔「もう、ここでしょ」
俺の手に触れて、ハンカチを奪う。
ハンカチ越しに俺の顔に触れているのに、翔くんは優しい手つきをしていると分かるし。
翔「ほら、首も...」
あ、駄目だ。
翔「...ん? どうかした?」
もう、無理だな。
智「翔、くん」
こんなにドキドキして、こんなに触れたいと思ってるのに。
翔「智くん...? 目が、潤んでるよ...?」
その衝動を抑えるなんて、俺には到底無理だ。
翔「え...、さと...」
我慢なんて、出来る訳ねえ。