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神様の願い事

第6章 名探偵



「呼んだんじゃないの...?」

翔「呼んでないよ(笑) だって今、風呂入ってたんだから」

「あ、そっか...」


じゃあなんで俺はここに居るんだ。


「寝てたのにな...」

翔「寝てたの?」

「うん。ベッドで寝て」

翔「へえ? 神様ってベッドで寝るんだ?」

「あ、いや、ベッドって言うか、寝床で...」

翔「で? 気付いたらここに?」

「うん...」


ここに来た理由。何も思い浮かばない。
翔くんだって呼んでいないと言うし。


翔「でも、丁度良かったかも」

「え?」

翔「実は少し、落ち込んでたんだよね」


声のトーンを落とし、翔くんは静かに話す。


翔「ごめん、ちょっとだけ...」


未だ床に座る俺を、翔くんは引き寄せた。


「え、どうしたの...」

翔「...そんな姿で来られちゃ、さ。甘えたくなるでしょ」


翔くんの胸に納まると、俺の手は翔くんの胸に掴まった。
それで漸く気付いた。

あ、猫じゃねえと。


「...何か、あった?」

翔「いや...、無くて」

「え?」

翔「何も、無くてさ。勇気も根性も、何も無いんだ」


耳と尻尾を残しただけの、人間の姿をした俺を翔くんは抱きしめる。


「あの人と、上手くいってないの...?」

翔「まぁ... そんなとこ、かな」


翔くんの“あの人”が誰なのかは知らないけれど。


「辛い...?」

翔「て言うか、ちょっと寂しいかな」


“あの人”のせいで、こんな顔を見せる。


「もぅ、そんな顔して...」


せつなそうな、儚そうな。


翔「俺にもうちょい勇気があれば...」


仕事中でもいつも堂々として頼りになるのに。
それなのに、“あの人”の事となると途端に情けない顔をする。


「...大丈夫だよ。いつもの翔くんでいれば、きっと願いは叶うよ」

翔「いつもの...?」


叶わない筈無いんだ。


「翔くんは素敵な人だからね。俺が、保証する」

翔「ふふっ、ありがと」


こんな奴、願いが叶わない筈無いんだよ。


翔「なんか、勇気出てきたわ」

「そ?」


そうだよ。お前は自信を持てばいい。


翔「でももう少しだけ充電、ね...」


抱きしめる力が強くて、ほんの少し胸が痛くなったけど。


だけど俺は応援するよ。


だって俺は、神様なんだ。




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