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神様の願い事

第1章 不思議な噂



この猫が神様かどうかなんてこの際どうでも良かった。
信じるものは救われる。
その言葉だけが、今の俺の頼りだった。


「早く言わないと寝ちゃうよ?」

翔「ま、待って。あの、その… 俺の気持ち的な事なんだけど」

「きもち?」


神様と名乗る猫は首を傾げて俺を見る。
きょとんとした様なその姿に、つい和んで笑みがこぼれてしまいそうだ。


翔「ある人を見ると、なんか、こう… ドキドキするって言うか」

「どきどき?」

翔「昔から可愛い人ではあるんだけど、なんか最近特に可愛く見えると言うか」

「うん?」

翔「他の奴と親密そうにしてると胸がきゅっとして…」


猫相手に何を言ってんだ俺は。


翔「だからその、これは一体どういう事なんだと…」


猫に悩みを聞いてもらうなんて、俺も落ちぶれたもんだ。


翔「はぁ…。や、いいや。頭打ったんだよきっと」


そうだよ。あの人が可愛いのは昔からだ。
あの垂れ目がちな瞳が俺を惑わすんだ。
んで悩んだりするもんだからどんどんドツボに嵌まってるんだ。
それだけだ。


「恋じゃないのそれ」


誰が言った今。


「どきどきしてきゅんきゅんするんでしょ? 恋でしょ」

翔「は…?」


恋? 恋とな?


翔「い、いやいやそれは無いでしょ」

「どうして?」

翔「だってあの人は…」


男だ。


翔「無いわ。やっぱ無いわ」


頭をぶんぶん振って雑念を飛ばす。
その俺のおでこに神様の肉球がぺちっと音を立てて当たった。


「そんなに振ったら首とれちゃう」


俺の頭の振りを神様は止めた。
そして赤くなったおでこをペロッと舐めて俺に聞くんだ。


「誰なのそれ」

翔「や、誰ってか… それは、まあ」

「教えてくれないの?」

翔「まだ恋とは限らないし、相手にも迷惑が…」

「ふうん…」


俺の膝の上で伸びをして額を舐めていた神様がシュタッと床に降りた。


「言ってくれないと何もしてあげられないけど」


さっきまでゴロゴロとすり寄って来てたのに、なんかちょっと冷たい。


翔「え、何か怒ってます?」

「別に?」


そうは言うものの、明らかに不貞腐れている様に見える。


「んじゃ僕かえる」

翔「え」


トコトコと玄関に向かって神様は歩き出す。


ぽて


翔「あ」


神様がコケた。






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