神様の願い事
第1章 不思議な噂
「んにゃ?」
コケた神様を拾い上げた。
翔「猫のくせに呑みすぎなんだよ」
胸に抱き寄せると、神様は丸くなって目を閉じた。
翔「こんな小さい体であの量はさすがに酔うでしょ」
「うるさいな…」
生意気な口を叩くくせに俺の腕の中で大人しく蹲ってる。
「自分の気持ちが知りたいんでしょ?」
翔「え? あ、ああ、うん」
「その人と二人になったりとかするの?」
翔「少しの時間なら」
「メシは? 二人で行ったりする?」
翔「あ~ 最近は無いかな…。行っても他に人が居たりとかで」
「じゃあ、ふたりっきりでメシでも誘ってみれば?」
恋のアドバイスってやつか?
なんでそんなもの猫から受けてるんだ。
翔「ふたりっきりで?」
「そしたら自分の気持ち、分かるんじゃない?」
もっともらしい事を言う。
まるで人間だな。
「おかわり」
翔「まだ呑むの!?」
「ちょっとだけだよ。ココ気持ちいいんだ」
あぐらをかいた俺の膝の上で神様は言う。
翔「もう駄目。ミルクにしときなさい」
「ええ~ ケチだな…」
ミルクも俺の掌から飲むのかよ。
なんだかんだでペロペロと舐めて満足そうにしてる。
「むにゃ…」
頭を撫でてやると目を閉じてウトウトし出した。
翔「ふふ、猫って可愛いんだな…」
あっというまにスヤスヤと気持ち良さそうな寝息を立てる。
だから俺は、その神様を連れて一緒にベッドに入ったんだ。
翔「あったかいな…」
結局悩みは解消されなかったけど、この温かさのおかげで気持ちよく寝られそうだ。
翔「おやすみ…」
「翔くん」
あれ? この声…
「気になる人って誰…」
俺の聞きたかった、低くてアダルトな声。
「ねえ、教えて…」
大人な、智くんの声だ。
翔「あれ…? 夢か…」
アラームで目を覚ますと、ベッドの中の温もりはもう無かった。
翔「ん? どこからが夢だっけ…?」
封の開いた酒瓶に、床に落ちた猫の毛。
翔「神様は現実か…」
神様の会話と混ざっておかしな夢を見たんだ。
折角だし、アドバイス実行してみるかな。
だってやっぱり
夢じゃなくて、現実であの声を聞きたいんだ。
あの人の隣で、あの声を聞いてみたいから。