
神様の願い事
第7章 謎のオバケ
プルルル
翔「あ、出て」
出しかけた言葉を飲んで、翔くんは電話に出ろと促す。
その着信は予想通りのタクシーだ。
智「着いたって」
翔「あ、うん」
智「ふふ、早かったね」
俺が席を立つと、翔くんも一緒に立ち上がって。
玄関に向かう俺の後を、大人しく付いてくる。
翔「これ、ありがと。洗って返すから」
智「うん」
玄関で靴を吐くと、くるりと俺に向き直って礼を言う。
翔「それで、さ」
智「うん?」
翔「さっきの事なんだけど…」
言いかけた言葉を、また持ち出してくる。
智「さっき?」
翔「うん、その...」
智「キスの事?」
モゴモゴしていた翔くんは、そのフレーズをすんなりと出した俺に驚いたのか、いつもより少し目を大きくした。
智「さっきのキスが、なに?」
翔「何って...」
俺の上であんなに堂々としていたのが嘘のように、翔くんの動揺は伝わる。
翔「急にあんなの、悪い事したなって」
智「大丈夫だよ。乗ったの俺だし」
翔「や、でも。仕掛けたのはこっちだし」
眉を下げて、情けない顔を晒すんだ。
智「本当大丈夫だから。そんな風に思ったら、また気まずくなるじゃんか」
翔「それはそうだけど」
智「じゃあいいじゃん。お互いキスしたい時もあるって事で」
俺とキスしただけで、そんなにしょんぼりするなんて。
翔「え」
智「したい気分だったんでしょ? ...翔くんわかり易いんだよ。急にキャラ変わるし」
翔「や、確かにおかしかったけど」
ほらな。やっぱり変な空気に流されただけの事だ。
翔「て事は、智くんもそんな気分だったって事...?」
下げた眉を更に下げて、只でさえ大きな目をもっと丸くして。
それで、覗き込むように俺に聞く。
智「...まぁ、俺だってたまにはあるよ。そんな気分」
これで漸く誤魔化しがきいたか。
翔「あるんだ...」
智「あるでしょ。普通じゃん。俺だって大人だよ?」
翔くんは誰かを俺に重ねていたのかもしれないけど。
智「だから気にすんなって。お互い様なんだから」
だけど俺は違うんだ。
翔くんに触れたくて、我慢出来なかっただけだ。
