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神様の願い事

第8章 半猫人



漸くチャンスがやってきた。
これでもう言い逃れは出来ないぞと気合を入れたのも束の間、スタッフ達がわらわらと楽屋に入ってくる。


「次の衣装置いときますね」

智「あ、はい」

「櫻井さんはメイクもあるので」

翔「ほい」

「あれ? 大野さんどうかしました?」

智「や、ちょっと」

「頭痛ですか?」

智「あ、うん。でも大したことないから」


耳を押さえていたおかげで、どうやらバレずに済んだようだ。


「準備出来たら来てくださーい」


“はーい”と返事をする智くんは、尻尾をまるめて背に隠していた。


翔「上手く誤魔化せたね」

智「な、なにが」


スタッフの乱入で、ほっと息をついたのも分かってた。
だけどまたもや二人きりだ。


智「そんな事より早く。メイクさん待ってるよ」


俺と目も合わさずにくるりと後ろを向いて。
だけどそんな事をしたって駄目だ。
だって後ろには尻尾が生えているんだから。


翔「これ、引っ込めないの?」


だからその尻尾をぎゅっと掴んでやった。


智「んぁ、ちょ離」

翔「ちゃんと言ってくれたら離す」

智「っ、ほんと、力抜けちゃうから」


“智くん”と俺が呼んで、当たり前のように返事をしたのに。
どうして今更悪足掻きをするのか。


翔「じゃあ話して?」

智「そんな時間、無いよ。みんな待ってる...」


確かに。
俺のスケジュールのせいで押してるんだし。
急がなきゃ迷惑が掛かってしまうな。


翔「じゃあ、終わったら待ってて? 話はその時に」

智「わかったよ…」


よし。約束を取り付けた。
これで安心、うふふふ。


翔「で? 引っ込むのこれ」

智「だから、力入んないから引っ込まないんだって」

翔「え」

智「気合い入れるから、離せってば」


ふぅっと一息深呼吸をして、智くんは集中する。


智「アッチ向いてて?」

翔「なんで」

智「見られてるとやり辛い」

翔「あ、はい」


仕方なく俺は背を向けた。
だけどそれには俺の計算も入っている。


智「んむぅ~っ、ふ」


俺の前にある鏡が、後ろの智くんを映しているんだ。

そこには、バキバキの血管を首に浮かせた智くんが居て。



だから俺はその首元に集中して、思わず息を飲んだんだ。




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