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神様の願い事

第8章 半猫人

《sideO》



あ、やべ。見えちゃうな。


なんとか気合を入れて猫の名残を消したものの、どうしても消せないものがひとつだけあった。


翔「智くん、それ...」


“アッチ向いてろ”と言ったのに、その声に振り向くと俺を凝視した翔くんと目が合う。


智「...見んなって言ったでしょ。早く着替え」

翔「それ、俺が付けたやつ?」


俺の言葉を遮り、自分の疑問をぶつけてくる。
その翔くんは未だ着替えもせず俺を見てる。


智「はぁ? もぅいいから。時間無いよ」

翔「いや待ってよ」


隠そうと、襟のボタンをひとつ多めに留めた。
なのにその襟を掴んで、翔くんは俺の首を晒す。


智「ちょ、シワになる」

翔「あ、ごめん」


血相を変えて凝視していたのに、衣装が皺になると言えばパッと手を離して素直に謝るんだ。


翔「けどそれって」


俺を凝視するからその瞳を見れなくて。


翔「俺が付けた跡だよね…?」


あんまり静かに話すから、その紅い唇に目を奪われてしまう。


智「後で、話す」


だからもう一度背を向けた。
目を逸らしただけじゃ、また詰め寄ってこられたら誤魔化せそうにないし。
もう目も合わないようにと、背を向けたんだ。


翔「わかった...」


俺の後ろで着替え始める動作の音しか聞こえないのに。
どうしてこんなにもドキドキするんだろう。


翔「じゃあ、終わったら待っててよね」

智「わかってるよ」


さっき約束をしたのに、再確認するかのように念を押すし。


翔「チャチャッとやれば、智くんより30分かかる位で終わる筈だから」

智「振り完璧なの?」

翔「コソ練したからね(笑)」


その笑いにつられてつい振り向いてしまったら、俺はもう駄目で。


智「ふふ、コソ練て...」


うっかり合わせた目を、すぐに伏せた。


翔「俺メイクあるから、先行っといて」

智「うん」


ぎこちなく伏せたから、何か言われるかと思った。
だけど普段通りに接してきたし。


智「じゃ、後で」


だから俺も負けじと普段の声を出すんだ。


首にこんな紅い跡を残されて。

思い出しただけで胸が熱くなるって言うのに。

なのに翔くんはそんな俺の気も知らないで、“猫か人間か”の疑いしか掛けて来ない。


これがいわゆる、不幸中の幸いと言うヤツか。



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