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神様の願い事

第8章 半猫人

《sideS》



翔「どこ行くつもり?」

智「あ」


智くんから遅れる事数10分。
漸く仕事が終わり、楽屋へと向かう途中でペタペタと歩く智くんの背中を見つけた。


翔「帰ろうとしてたでしょ?」

智「ち、違うよ」

翔「待っててって言ったのに」


慌てる智くんは、背に荷物を隠して首をブンブンと振った。


智「翔くんまだかなぁって。見に行こうとしたんだよ」

翔「帰り仕度して?」


約束をしたのにコレだ。
油断も隙もあったモンじゃない。


翔「着替えるから待って」

智「あ、はい」


外へ向かおうとしていた智くんの向きをくるりと変え、楽屋へ再び連れ戻す。
連れ戻された智くんは罰の悪そうな顔をして、俺が着替えるのを静かに待っていた。


翔「じゃ、行こうか」

智「あ、でも俺マネが」

翔「言っといたから。俺が送ってくって」

智「あぁ、そうでしたか…」


不思議な事に、俺は何故だか肝が据わっていた。
諦めた表情で俺の後をトボトボと着いてくるからだろうか、なんだか少し気が大きくなった。


翔「乗って」

智「はい」


素直だ。えらく素直だ。
約束をすっぽかして帰ろうと企んでいたのが嘘のようだ。


翔「智くんちでいい?」

智「え、家?」


ハンドルを握りながらチラッと覗けば、ほんの少し動揺が見えた。


智「や、俺の家はちょっと」


これも素直に頷くかと思ったら、ここは抵抗するのか。


翔「じゃあ、俺の家で」

智「え」


また動揺を見せた。


翔「いいよね? 少し散らかってるけど」

智「や、それなら外でいいんじゃ」

翔「駄目だよ」


困ってるのかな、なんて。
いつもはそう思って空気を読んで遠慮するんだけど。


翔「外でこんな話、出来ないでしょ?」


だけど今日は遠慮なんてしない。


智「こ、こんな話って...?」


その声の出し方に、緊張してる事も分かるけど。


翔「...猫に変身するとか聞かれたら俺らヤバい奴だと思われるよ?」

智「う」


だけど今日はとことん緊張させてやる。

少し可哀想な気もするけど。

だけど、俺だって知りたいんだ。


貴方が今どうなっているのか、ちゃんと確かめたいんだ。




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