
神様の願い事
第8章 半猫人
翔「おっ、おばっ!?」
智「気づかなかった?」
猫の神様だとか、ファンタジーだななんて思ってたけどこれはホラーだったのか。
智「あの鏡もたぶん呪われてる」
翔「ええっ」
確かに“オバケ”かも、なんて最初少し思ったけど。
智「外れないでしょ。あの鏡」
翔「あっ、そ、そうなんだよっ」
目をまるくする俺を、智くんは余裕の笑みでクスッと鼻を鳴らすし。
翔「で、でも俺呪われる筋合いなんて何も」
智「だよねえ…」
クールな俺は一体何処へ行ったのか。
翔「さっ、智くんの鏡も呪われてるの? この間、全然外れなかったけど」
智「みたいだね(笑)」
どうしてそんなに落ち着けるんだ。
俺が慌てると、それに反比例するように智くんはどんどん余裕になっていく。
翔「ちょちょちょ、外してっ」
智「え? 無理じゃ」
翔「いいから早くっ」
クールに詰め寄ろうと思っていたのに、俺は無様に智くんの背中を押す。
“無理だよ”と笑う智くんを一生懸命押して、漸くえいっと寝室に押し込んだ。
翔「ど、どう?」
智「ん~、やっぱ無理だね」
翔「ええ~...」
智くんの後ろから鏡にかける手を見ていたが、その手はビクともしないし。
未だにガッチリと固めてあるという事が視覚からでも分かった。
智「あれ? てかこの鏡、なんも映ってなくない?」
翔「そういう鏡なんだよ…」
智「え? じゃあ俺が通る為だけにあるの? これ?」
翔「あ、まぁ...、うん」
ほんの少し胸がチクッとした。
智くんは“もう嘘は付きたくない”と言ってくれたのに、誤魔化そうとする自分の罪悪感が胸を刺した。
智「ったく、なんなんだよあのじじい」
翔「はは、本当だね...」
少しだけど、声のトーンがおかしくなった。
それを敏感に察知した智くんは、くるりと振り向いて俺を覗く。
智「...翔くん? どうかした?」
眉を下げて、垂れた目で。
くるくると瞳を揺らしながら、俺を覗き込む。
翔「いや実は、もうひとつあるんだ」
智「なにが?」
翔「その鏡の役割...」
これは言っちゃいけないんじゃないかと、黙っておいた方がいいと思った。
だけどやっぱり俺だって。
その瞳に嘘はつきたくないと思うんだ。
