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神様の願い事

第8章 半猫人



智「え、じゃあ、俺の私生活を覗いてたって事...?」


罪悪感から俺は、智くんの顔を見られなかった。


智「翔くん?」


その俯く俺に、問いかけるように優しく声をかける。


翔「うん、覗いてた。ごめん...」


“そっか”と智くんは小さく声を出した。
それで、ふふっと笑って明るい声で話すんだ。


智「俺も翔くんのプライベート覗いてたようなモンだし、これでチャラだな」

翔「え?」

智「だってそうじゃん。神様だとか言って翔くんの話聞いてたし」

翔「ああ、恥ずかしい話を色々と...」

智「ほら、ね(笑)」


俺の事を軽蔑するかと思ったのに、智くんは明るく笑う。
俺が気まずさを出している事を察知して、気にするなと笑うんだ。


智「あのじじい、本当しょうがないな」

翔「本当、どうしてこんな鏡...」


その智くんに俺は救われる。
いつも俺の事を、“空気が読めるし気を遣える”と褒めてくれるけど、俺にとっちゃ智くんだってそうだ。


翔「他の人も覗けるのかな」

智「いや、映らないよ」

翔「どうして分かるの?」

智「なんとなくだけど...、たぶん、俺しか映らないんじゃないかな…」

翔「そうなの...?」


だから気まずい空気もすぐに消えて、俺は智くんと会話が出来る。


智「ここを通れるのも、きっと俺だけ」

翔「まあ他に猫人なんて居ないしね」

智「だからなにその猫人て(笑)」


俺がクスッと笑うと、智くんも笑うし。


翔「違うな。半分だから、半猫人か」

智「はぁ?(笑)」


真っ黒の何も映さない鏡の前で。
クスクスと笑い合って肩を突いたりして。


翔「だってそうでしょ。見て、アタマ」

智「ん? あ」


真っ黒だから何も映さないのに、その鏡に智くんが反射して映ってる。


翔「ほら、半猫人じゃん(笑)」


頭に黒い耳をちょこんと乗せて。
脇腹から覗く尻尾はやっぱりしなやかで。


智「いつの間に...」


それを隠すでもなく諦めて撫で付ける智くんはやはりキュートで。


翔「改めて見るけど、似合ってるよ」



思わずそんな本音が、口をついた。





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