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神様の願い事

第8章 半猫人

《sideO》



智「あれ...」


寝ようと思ったところだったのに。


智「え、呼んだ?」

翔「いいや?(笑)」


ベッドに転がる翔くんの前に、俺は飛び出た。


翔「本当不思議だな、この鏡...」


腹の上に乗せていた本を畳んで、翔くんは鏡をマジマジと見た。
その隣に立ち竦む俺は、苦笑いをするしか無くて。


智「ごめん邪魔して。帰るわ」

翔「え」


ベッドから起き上がる翔くんを尻目に、俺は鏡に手を伸ばした。
だけど案の定、鏡は俺を受け入れてくれず。


翔「入れる?」

智「入れない...」

翔「ははっ」


ここに来た理由は簡単に説明がついた。


翔「え、なに? 勝手に来ちゃうの?」

智「みたい」


翔くんを想いながらベッドに伏せてたからだ。


智「ごめん、タクシー呼んで貰っていい? スマホも持ってなくて」

翔「呼ぶけど、折角だから少し話さない? 聞きたい事もあるし」

智「いいけど...」


寝入る前の読書だったんじゃないのか。
俺が来た途端 睡魔を何処かにかき飛ばし、翔くんはこっちこっちとリビングに俺を誘導した。


智「何? 聞きたい事って」


聞きたい事があるとか言われると少し緊張する。
その緊張を隠して、俺は極力通常の声を出した。


翔「この間の事なんだけどさ」


俺が翔くんにカミングアウトした時の事か。


翔「貴方、帰る前に何か言った...?」

智「え...?」


まさか、意識があったのか。


智「何かって...?」

翔「随分前にも聞いた覚えがあるんだけどさ」


寝てる事を確かめて、それで言ったんだ。


翔「あれはだから、猫の智くんを連れて来た時だよ」


前だって、翔くんが寝ていると思ったから。


智「で、それどんな言葉...?」


まさか、全て聞かれていたと言うのか。


翔「前に聞いた声と同じ、低くて、アダルトで...」


聞いたってどうせ答えてくれないだろうと。
こんなに気になってるなんて、知られてもマズイだろうと。


翔「誰なの...って」


だから寝ている翔くんに聞いたんだ。


翔「教えてって」


それが全て、バレていたと?


翔「あれ、貴方の声でしょ...?」


血の気が引く。

顔が冷たくなる。


俺はとうとう、この愛しい人を失ってしまうのだろうか。




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