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神様の願い事

第8章 半猫人



黙りこくって目を伏せる翔くんは、少し震えているように感じた。


智「ごめん、もう、聞かないから」


俺の両脇に差し込んだ腕を突っ張らせて、寂しさに耐えているように見えた。


智「だから、そんな顔しないで...」


こんなに辛そうな顔、今まで見た事があっただろうか。
初めて見るその顔に、俺の胸はキリキリと傷んで。


智「頼むよ、笑って...」


顔を伏せて、目を閉じてるから。
俺がどんなに翔くんを見ながら話しても、その震えは止まらないんだ。

だから、その肩を抱き寄せた。


智「泣かないで」


肩を抱き寄せると、突っ張っていた腕は曲がり、翔くんの身体は俺の身体にピタリと張り付く。


翔「智くん...」


張り付いた身体の隙間を更に埋めるように、俺はそろりと翔くんの背に腕を回した。

躊躇していた腕を回すと俺の手には自然に力が込もり、震える翔くんをぎゅっと抱きしめる。


翔「ごめ、泣いてないよ」


そう言って、俺の腕から出ようとするけど。


翔「智くん?」


離せないんだ。
まだ、辛そうな声を出しているから。


智「駄目だよ。まだ笑ってない」


そのまま顔を上げたら、寂しそうな歪んだ顔が見えてしまう。
だから俺は、ぎゅっと力を込めた。
その顔を見なくていいように、見えないように。


翔「あれ...、また...?」


慰め方がわからなくて、俺は尻尾を出した。


智「ボケてた訳じゃ無いよ」


その尻尾で、翔くんの脇腹を擽った。


翔「ふふっ、擽ったい」


こんな時に不謹慎だけど、俺に伸し掛る翔くんの重みが心地よかった。


智「気持ちいいでしょ? 俺のしっぽ」

翔「俺のって(笑)」


寂しそうな顔は胸が痛くなるけど、それを腕に閉じ込めると翔くんの温もりが伝わって。


翔「ははっ、耳も出てる」

智「ん」


せつない程に苦しくなる。

寂しそうな顔を見たくなくて、幸せそうに笑って欲しくて。


智「なんかあったかくてさ、出ちゃった」

翔「そっか...」


その辛さを少しでも和らげてやりたくて、俺は翔くんを抱きしめたんだ。




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