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神様の願い事

第8章 半猫人

《sideS》



俺の気も知らないで、この人は酷な事を言う。


翔「引っ込まないね?」

智「気、張ってないからね」


俺が貴方を思ってこんな顔になるって事を、この人は微塵も思ってない。


智「いんだよ。タクシー乗らないから」

翔「え?」

智「送ってくれるんでしょ?」


ベッドに転がったままで、俺をその胸に閉じ込めて。


翔「そうだけど、外、困るでしょ」

智「帽子貸して」

翔「本当、引っ込める気無いんだ(笑)」


あったかくてつい出ちゃったと、智くんは笑ったけど。
その和んだ声が、俺の胸を突き刺す事を知っているのだろうか。


智「なんか、駄目なんだよね...」

翔「え?」

智「翔くんといると、引っ込める気が失せる」

翔「どういう事それ(笑)」


安心してるんだと、全身で伝えてくる。
それだって、俺の事をなんとも思っていないから言える事だ。


智「って、笑ってんじゃん」

翔「だから、最初から泣いてないんだって」

智「そっか(笑)」


やっとの思いで元に戻した声を聞いて、智くんは俺から腕を外した。

すると、すぅっと、冷たい空気が俺と智くんの間に流れたんだ。


智「さむ」


くっついているとその体温は倍になり、とても暖かく感じたのに。


智「一気に冷えたな(笑)」


身体を離した貴方は、屈託の無い笑顔で俺を見た。


翔「ちょ、もっかい」

智「へ?」


その笑顔が愛しくて。


智「翔くん?」

翔「寒いんだよ」


その笑顔が、苦しくて。


智「...たまに、甘えん坊出るよね(笑)」

翔「甘えさせてくれるって言ったの、貴方でしょ」

智「ふふ、言ったね」


傍から見れば、智くんの方が甘えん坊に見えるだろう体勢で、俺はしっかりと智くんを抱きしめ直した。


智「俺でよかったら、あっためてあげるよ」


顔を智くんの首元に擦り付ける勢いで密着して、ぎゅうっと抱きしめる。


智「...なんの代わりにもならないかもしれないけど」


その俺の背に、智くんの腕も回されて。


智「いつでも、あっためてやる...」


俺の力に対抗するかのように力を入れた。


その締め付ける力は驚く程に強くて。


だけど驚く程に暖かい。



俺はこの温もりを、手放したくないんだ。





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