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神様の願い事

第8章 半猫人

《sideO》



智「不倫でもしてんのかな」

「は? なんじゃいきなり」


もう遅いからやっぱタクシーで帰るよと、“大丈夫だ”と言う翔くんを宥めてタクシーを呼んだ。

その帰り道、あの寂しそうな顔が脳裏を離れなくて。


智「あんな顔するなんて、普通の恋じゃ無いんじゃないかな…」

「ああ、“翔くん”か?」


あんなに思い悩む程の事なんて、そうそう思い付かない。
してはいけない恋を、しているのだろうか。


「おぬしはどうなんじゃ」

智「へ?」

「普通の恋、出来そうか?」

智「できる訳無いだろ」


俺も普通じゃない。
してはいけない恋心を、抱いてしまった。


「ワシもなぁ、そう思って早何十年...」

智「じいちゃんいくつなの」

「それは内緒じゃ」


いやでもなあ。
俺と翔くんの恋は種類が違うだろうし。
俺は想いが届かなくとも、黙ってさえいれば一緒にいられるし。


「気持ちを押さえたまま、一緒にいるのは辛く無いのかのぅ?」

智「へ?」


辛いなんて、そんなの気持ちに気付いた時から始まってた。


智「別に...、打ち明けて失うよりマシだよ」

「でも、打ち明けないと結ばれる事も無いんじゃよ?」

智「それはそもそも無い」


俺はこれでも結構口は固い方なんだ。
誤魔化すのは下手だけど、意地でも言わない自信がある。


「早くなんとかしないと、猫になってしまうぞよ?」

智「え」

「その呪い、今となっては解けるのは“翔くん”だけじゃからの」

智「呪い...?」


俺の気持ちを知ったじいちゃんは、この間から俺と翔くんをくっつけようとしている。
いや、この間と言う訳では無いのかも。
そもそも最初から、俺と翔くんをターゲットにしていたようなものだ。


智「え、ちょっと待って。呪いって、なに?」


時空を超えてきたオバケのじいちゃんは俺の世話を焼く。

俺に“シアワセ”を見つけさせようとして、俺に張り付いている。


智「まさかじいちゃん、悪いオバケだったの...?」


只の世話焼きじいさんかと思ってた。


「ふふ」

智「マジで」



俺はこのじいちゃんに、呪われてたんだ。





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