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神様の願い事

第1章 不思議な噂



ちきしょう抱き締めたい。

智くんが女だったらとっくに抱き締めてる。
それ程までに、俺の目の前で笑う智くんは可愛いんだ。

いや違うな。クソ可愛いんだ。


智「シャワーでいいよね?」

翔「え?」


もう少しで手が伸びる所だった。
それを悟ったかのように智くんが立ち上がった。


智「泊まってくでしょ?」

翔「え、いいの?」

智「ふふ、だって時間ヤバいよ?」

翔「あ…」


なんならもう朝の方が近い。
もうこんな時間なんだから、早くシャワーして寝ようと俺にバスタオルを投げた。


智「ここ、ね?」

翔「うん、ありがとう」


俺を風呂に誘導し、智くんは出て行った。
ふらついていた足もしっかりと動く様になった俺は、漸くここで頭を冷やす。


翔「はぁ… 俺、ヤバイな…」


智くんの事が好きなのかもしれない。
そう悟った俺は、途端に頭がおかしくなるんだ。


翔「なんであんな可愛いんだよ…」


いや違う。
智くんは何も変わっていない。
あの人はいつもと同じだ。

変わったのは、智くんに対する見る目を変えた俺だ。


翔「落ち着け。落ち着くんだ俺」


この気持ちを認識してしまったが為に、俺の心臓は騒がしくなってしまった。
その胸のドキドキを悟られまいと、俺は頭を冷やす事に集中する。


翔「ん…?」


サッパリした体を鏡に写しながらバスタオルを纏う。
そんな俺の目にうっかりと入ってきたモノ。


翔「歯ブラシが、2本…?」


白い歯ブラシと青い歯ブラシ。
その2本が仲良くコップに並んでいた。


翔「そりゃそうだよな…」


はぁ、と溜息をついた俺は少し胸に苦しさを覚えた。

あの人だっていい歳した男だ。
彼女がいたってなんの不思議も無かった。

だけど普段はそんなもの、これっぽっちも匂わせないんだ。


翔「ははっ、当たり前だよ」


女の影なんて少しも見せなかった智くんが、急に遠く感じたんだ。
さっきは手の届く距離にいたのに、急に手が届かなくなったみたいで。


翔「馬鹿だな、俺…」


ふわふわと可愛い笑顔を見せてくる智くんは、彼女にどんな顔を見せるのだろう。

俺に見せるように、無防備な笑顔を晒すんだろうか。

それとも、俺の全く知らない顔を持っているのだろうか。


あの低くてアダルトな声も、彼女には聞かせるのだろうか。





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