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神様の願い事

第9章 ねこのきもち

《sideS》



“智くんと恋がしたい”

とうとう言ってしまった。


智「え...」


その言葉に動揺しているのか処理しきれないだけなのか、智くんはすぐに返事をしない。


智「なに、言...」


その言葉はどんな意味を含むのか。
“お前の勘違いだよ”、そう言っているのだろうか。

だけど俺は周りから背中を押されている、そんな気がしていた。

バレバレだったのか皆は俺の気持ちに気付いていたし、その皆は俺を応援するかのような言葉を繰り出した。

それにあのお爺さん。
オバケだか何だか知らないが、“お前さんにしか意味が無い”と渡した鏡には智くんが映し出され、挙句その智くんが俺の元に飛び出してくるというシロモノだった。


翔「俺んとこに飛び出てきたのも、智くんが俺に会いたかったからじゃないの?」

智「そ、んな事は」


勇気を出したんだ。
振り絞って、素直になった。

だって神様を名乗った智くんは、“素直が一番だよ”と言ってたから。


翔「それとも、全て俺の勘違いだった...?」


“そうだよ、勘違いだよ”とか言おうとしてんだろ。
確かに俺はまだ智くんの気持ちに確信が持てていない。
“勘違いだ”と笑い飛ばされてしまったらそれまでだ。


智「恋、が」

翔「うん?」

智「したいって、言った...?」


俺の方がかなり上手に見えるこんな場面でも、実は結構ビビっていて。

返事を聞きたいのに、どんな反応を示すのか怖くて。

どんな言葉がその口から繰り出されるのかが怖くて、俺はずっと智くんの唇を塞いでいたんだ。


翔「言ったよ。貴方と、恋がしたいって…」


だけど漸く唇を離した。
智くんが、口を開きたそうにしていたから。


智「それは、どんな考えで言ってるの...?」


そのままだが。


智「どんな気持ちで、そんな事を言ってる...?」


何を聞きたいのか。

“貴方と恋がしたい”と言う言葉には、そんなに悩む程の意味が含まれているのだろうか。


翔「隠さなくなっただけだよ」

智「え?」

翔「正直に、話しただけだ...」


“素直が一番だよ”と言ったのは貴方だろう。

素直になれば、幸せになれると。


それを分かっていながら、どうして貴方は素直にならないんだ。





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