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神様の願い事

第10章 恋人の定義

《sideS》



智「俺、個室がいい」

翔「え?」

智「誰も来ない、完全にプライベートの守れるとこ...」


ハンドルを握る俺の隣で、智くんは虚ろな瞳をしながら言う。


翔「大丈夫だよ。知ってる店だから」

智「絶対、誰も来ない...?」

翔「え? うん...」


気だるそうにシートに身体を預け、細めた瞳を潤ませながら智くんは小さな声で話す。


智「じゃあ、そこにしよう...」


言い終わると、その口から小さな息が漏れる。
その息も瞳もまるで濡れているようで、車窓に映る智くんはキラキラと光っていた。


翔「着いたよ」

智「うん」


ゆっくりとシートベルトを外す手も、暗闇の中に浮いて見える。


翔「そこ足元危ないから気を付け...」

智「っと」

翔「ほら、言ったでしょ(笑)」

智「ふふ、ごめん」


よろける智くんの腕を掴むと、智くんはふわりと笑って。
だけどその笑みは一瞬目が合っただけで、俺の背を掴んでいるにも関わらず智くんは視線を足元に移す。


智「よし、もう大丈夫。 行こう?」

翔「うん...」


かと思えばパッと顔を上げて、俺の背をポンと叩いた。







翔「どう? この個室なら完璧でしょ?」

智「うん」


個室に通されるまで、智くんは終始俯いて。
店員が戸を閉めた音を聞いて漸く、顔を上げて俺を見た。


智「そっち、座っていい?」

翔「うん、どうぞ」


戸から死角になるポイントを智くんは選ぶ。


智「翔くんも」

翔「え?」

智「こっち、座って」


だったらと、俺は対面の場所に移動した。
だけど智くんは、“こっち”と顎をクイクイして俺を呼んだ。


翔「え、ここ?(笑)」

智「嫌?」

翔「や、嫌じゃないけど、並んで座るとかおかしくない?(笑)」

智「誰も来ないんでしょ?」

翔「あ、まぁ...」


対面に座る場所があるというのに。
智くんは死角になる場所を選んで俺を隣に座らせる。


智「だったら見られる心配無いし、いいよね?」


さっきまでの智くんとは少し様子が違う。

なんだか気だるそうで、少し色気を出して。


だけど今の智くんは、“誰も来ない”事に安心したのか途端に無邪気に笑った。


智「やば...、もう、無理っぽい(笑)」



その悪戯な笑みが、俺の心臓を貫いた。




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