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神様の願い事

第10章 恋人の定義

《sideO》



智「ん。これ旨い」


どうしたんだろう。
いつもなら、“でしょ?”とか言ってノッてくるのに。


智「翔くん? 美味しい?」

翔「うん。旨いよ」


翔くんは大した反応も見せず、黙々とメシを食う。
さっきキスの途中で、助けを求めるかのように呼び鈴を押したのがいけなかったのだろうか。


翔「ねえ、やっぱここに座る意味無くない?」


黙々と食べるその横顔を見ていたら、急にスプーンを置いて言葉を発した。


智「駄目だよ」

翔「どうして?」

智「店員さんが来た時、隠して貰えないじゃん」

翔「へ?」

智「耳」


帽子でなんとかなりそうでもあるけど、やっぱ不意の事態に備えるに越した事は無いし。


翔「...もしかしてですけど」

智「ん?」

翔「俺を隣に座らせたのは、この耳を隠す為なの?」


すぐに返事も出来たけど、なんだか翔くんの表情からして“うん”とか言っちゃいけない気がした。


翔「俺の傍に、少しでも居たくてとかそんなんでは」


無くもないけどさ。


翔「やっぱ、ないのか…」


俺なんも言ってないのに。
勝手に一人で結果を出して肩を落とした。


智「別にそれだけじゃないよ(笑)」

翔「いや、違う。絶対それだけだね」


何をそんな自信満々に。


翔「本気じゃないのは、そっちの方なんじゃないの?」

智「へ?」

翔「おかしいと思ってたんだよ。こんな気持ちが報われるなんて、絶対有り得ないと思ってたんだ」


ついにはスプーンを投げ出し、壁に凭れて悪態をつき始めた。


智「だって、困るじゃん」

翔「なにが」

智「あんなキス、ずっとしてたらさ...」


助けを求めるように呼び鈴を押したのは、そのまんま、あの状況から脱出しなきゃと思ったから。


智「止まんなくなっちゃうでしょ」


投げ出したスプーンを拾って、俺をチラリと見るんだ。


智「俺だって、我慢してるんだから」

翔「え...」


何を今更驚く事があるのか。


智「だからやめて。あんなエロいキス(笑)」

翔「別にエロくなんて」


俺だってずっとしてたかったけど。
よくよく考えてみれば外だし。

やっぱここは我慢するところなんじゃないかなって。

だけどまたあんなキスされたらどうしようか。



もう抑える自信なんて無いんだけど。





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