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神様の願い事

第10章 恋人の定義

《sideS》



翔「智くん? さと」


寝ている。


翔「ほら、お風呂入らないと」

智「ん...」


帰りの車内でも気だるそうにシートに凭れて。
疲れてるのかな、なんて“寝てていいよ”と言おうもんならすぐに寝たのに。


翔「ほぉら。しっかりして」

智「あい...」


俺が風呂に入っている隙に、また寝ていた。


翔「はい、タオル」

智「ん」


大丈夫かアレ。
確かに今朝は早かったけど、楽屋でしこたま寝てたし。
そんなに疲れる事、何かあったっけ。



それにしても、今日はなんたって“恋人”としての初めての夜だ。

昨日も一緒に寝たけれど、俺が抱いて眠ったのは猫の智くんだったし。
それに想いもまだ通じ合ってなかった。

それに比べ、今日は正真正銘の初めての夜。

俺の心臓は緊張感に高鳴る。



翔「遅いな…」


最初こそ水の音がしていたが今は静まり返ってるし。
まさかとは思うけど、寝てないだろうな。


翔「溺れてるんじゃ」


いや、あんな調子だ。きっと寝てる。
静まり返ったバスルームに嫌な予感がして、俺は急いでバスルームへと向かった。


ガチャッ


翔「智くんっ」

智「すぴー」

翔「あっ」


沈んではいない。
いないけど、顎まで浸かってもう少しで溺れてしまいそうだ。


智「ん...?」

翔「溺れるでしょっっ!」


“あれ? 寝てた?”なんて言う智くんは呑気に笑う。
俺がこんなに高ぶっているというのになんという事だ。


翔「どうしたの今日。ずっと寝てない?」

智「なんか、疲れちゃって」

翔「そんな疲れる事あった?」

智「ん。翔くんといるから...」

翔「は?」


俺が疲れさせていると?
まさか、もう俺に愛想をつかしたと?


智「駄目なんだよね、俺」

翔「なにが...?」

智「翔くんの声がさ、気持ち良くて...」


気持ち良くて駄目なんだと言う智くんはまた笑う。

風呂から引っ張り出され、身体を俺に拭いてもらいながらニコニコと笑うんだ。


智「や、声だけじゃないな。雰囲気と言うか、翔くんそのものが、ね...」


ニコニコというか、ヘラヘラして。

身体を揺らしながら、ふにゃふにゃと笑う。


その笑顔に、さっきの俺の解釈は勘違いだったんだなと、安心するんだ。




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