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神様の願い事

第10章 恋人の定義



翔「で、俺が疲れさせているとはどういう事?」

智「なんか、出ちゃうんだよ」


身体を拭いて、部屋着に着替えた智くんをソファーに座らせ俺は問う。


翔「あぁ、これ?」


店を出る時一旦引っ込めたものの、その猫耳はいつの間にか出てしまっていた。


翔「いつもそんな我慢してたの?」

智「いや、こんな辛かったの初めて」


前は気を緩めた時にうっかり出てただけなんだと、だけど今日は常に出そうでずっと気を張っていたと言う。


翔「どうしてそんな...」

智「だからさ、翔くんなんだよ」

翔「俺が原因だって言うの?」

智「前はさ、まだバレてなかったしこんな関係でも無かったから」

翔「うん」

智「気を張ってたというか、ちょっと気を付けてたんだよ。“バレちゃいけないな”って思ってたから」

翔「ん、そうだよね」

智「だけどもう知られちゃったし、隠す必要無くなっちゃったじゃん?」

翔「ああ、それで気が緩んだの?」

智「それもあるけど」


そこで一息ついて、俺をちらりと見上げた。


智「もう、嘘ついたり騙したり隠したり」

翔「へ」

智「しなくていいんだって思ったら」

翔「え、そんな?」

智「安心しちゃってさ...」

翔「ちょっと待って、俺そんなに騙されてたの?」

智「ふふ」


いや、笑うとこじゃねえ。
でも、その柔らかい笑みに俺が何も言えなくなってしまう事を、智くんは知っているんだ。


智「だから今日は、ずっと駄目だったんだ...」


ソファーに深く凭れて、天を仰ぎながら目を閉じる。


智「気が緩むとかじゃなくて、翔くんの傍にいるといつの間にか出てるし」

翔「でも、仕事中はイケてたでしょ?」

智「だから辛かったんだよ。こんな気ィ張りっぱなし、初めてだよ(笑)」

翔「あ、だから。そんなに疲れてるの?」

智「そう(笑)」


抑えられなくなるんだと智くんは言う。

駄目だ駄目だと思っていても、俺の顔を見た途端、ぽんっと飛び出ちゃうんだと。


智「だから、ちょっと和ませて...」


ソファーに凭れた頭をそのまま俺の肩に落とし、目を閉じる。
俺の首はそんな智くんの髪に擽られて。

顔を傾けその髪に鼻を埋めると、俺と同じシャンプーの香りがした。


だけど何故か俺より甘い。


その甘さはきっと、智くんから出ているんだ。



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