神様の願い事
第10章 恋人の定義
翔「おまたせ~...」
そんな想いを抱えながら智くんのいるリビングに向かう俺は、どこか腰が引けていた。
智「んははっ」
翔「...なに見てるの?」
だけど智くんにはもう余韻は無い。
智「ん? くっだらねぇんだよコレ(笑)」
TVから視線を逸らし、俺をチラッと見ながら笑顔で答える。
翔「でも面白いの?」
智「や、寝ちゃいそうだったからさ。TVでも見ようと思ったらくだらないの見つけて」
くだらないわりに、涙目で笑っているし。
翔「じゃあ、俺も見ようかな」
さっきの甘えん坊の智くんは何処へやら。
キスを終えても名残惜しそうにしていたし、俺が風呂から出てくるのを待ってたんじゃないかと少し期待したのに。
甘えてくるどころかエロさの欠片も残ってはいない。
智「ちょ、もっとちゃんと拭いてきなよ」
翔「え」
智くんの隣に座ると、俺を見上げて髪を指差した。
智「俺まで濡れちゃうよ(笑)」
雰囲気というかそんなものを演出しようと思ったのに。
余韻の全く残らない智くんは、そんな事に微塵も気付かず俺を笑い飛ばす。
智「ほぉら早く~」
折角座った俺をグイグイと押し退けた。
翔「もぅ、乾かしゃいいんでしょっ」
智「なに(笑)」
翔「べつに」
智「って、ちょっと怒ってんじゃん」
駄目だ。
やはりインターバルを置いたのが失敗だ。
智「...こっちきなよ」
翔「今乾かしてるから」
智くんにはそんな気、これっぽっちも無いんだから。
智「ヘタクソなんだよ。俺が、やってあげる」
翔「はぁ?」
乾かせと言うから乾かしていたら“ヘタクソ”とは何事。
智「貸して」
俺の後ろに立ち、ドライヤーを奪い取って。
智「ちょ、座って。やりづらい」
言葉のままに座ると、無言でドライヤーを当て。
暫くして乾き出すと、漸く言葉を発した。
智「やっぱサラサラだね」
髪を触り、俺の好きな柔らかい声を出す。
智「あ、ほら。すぐ乾かさないから」
ドライヤーを止めると静かな空気が広がって。
髪を撫でていた手が、俺の胸元に伸びた。
智「服も、濡れちゃってるじゃん...」
濡れたTシャツの襟を撫でる智くんの手は湿り気を帯びる。
そのしっとりとした手を、俺は掴まずにいられなかった。