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神様の願い事

第10章 恋人の定義

《sideO》



智「帰んないの?」

「へ?」


猫耳ももう出ないというのに、未だにじいちゃんは寝室の鏡と共に居る。


「帰りたいのはヤマヤマなんじゃけど…」

智「んじゃ早く帰りなよ」

「いやいや」


“帰れるかバカ”とでも言わんばかりの勢いで、呆れた声を出した。


智「もう死んじゃうんでしょ?」

「ちょ、言い方」

智「え〜と、待ってるんでしょ? じいちゃんを」


確か、もうすぐ死んじゃうから迎えに行ってやらないと、とか言ってたと思うんだけど。


「帰ってもいいのかの?」

智「いいんじゃないの? 俺もう治ったでしょ?」

「う~ん」


何故渋る。
そんなに俺と居たいのかな。


「いや実は、アレ結構強力で」

智「アレ?」

「ん。呪い」


一見治ったようにも見えるが、少し不安が残ると。
困った声を出しながら言った。


智「いやそんな困るなら、なんでそんな強力なのを」

「普通じゃったんじゃよ? だけど、お前さん達があまりにもトロくさいから」


期間を経る毎に強さが増していったと言うんだ。


智「え、でも治ったでしょ? もう出ないもん」

「それならいいんじゃが…」


翔くんとベッドを共にしたあれ以来、猫の気配なんて出てないし。


智「ちなみにだけど」

「うん?」

智「もし、治ってなかったとしたら」

「うん」

智「俺、どうなるの...」


治ったから、もうこんなの聞かなくてもいいんだけど。
だけど未だ部屋に張り付く鏡と共に居るじいちゃんが気になる。


「どうって、だから」


そう言えば、翔くんの部屋の鏡は外れただろうか。


「猫になっちゃう」

智「へ」

「それもアレだ。この前みたいな不完全なヤツじゃなくて完璧な」


この前のでもほぼ猫だったのに、じいちゃんはそれを不完全と言う。


「全部、忘れてしまう」


人間だった記憶も翔くんの事も、全てを忘れ去って只の猫になると言うんだ。


智「え...」


よかった。治って。


だってそんな、只の猫になんて。


智「なりたくないよ...」



俺はこれからも人間で、沢山の愛を育む予定なんだから。




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