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神様の願い事

第10章 恋人の定義

《sideO》



智「今日は急にごめんね? 帰るよ」

翔「帰るの? もう遅いし泊まって行けば?」

智「や、明日早くなったんだよね」


別にそんなに早くもないんだけど。


翔「え、そこから?」

智「頑張ればイケんじゃないかと思って」


なんだかさっきの俺が恥ずかしくて。
急に来ていきなりあんな事。
誘ったみたいだし、甘えてるみたいだったし。


翔「まぁ確かに。来れる訳だから、戻れるのも当たり前だとは思うけど」

智「でしょ?」


だから背を向けて、何事も無かったかのように振る舞っている。


智「あ、イケそう」

翔「え、ほんと?」

智「ん」


さっきは、“まだ駄目だ”とか言って簡単にはイカせなかったけど。


智「じゃ、またね」

翔「気を付けて」

智「大丈夫だよ、すぐ家なんだから(笑)」

翔「そっか(笑) じゃあ、おやすみ」

智「うん。おやすみ」


今日はなんだか結構簡単にイケた。
いつも自分の意思では戻れなかったのに。







「おかえり」

智「ん」


で、じいちゃんはやっぱり居るし。


智「この鏡さぁ… もう、意味無いと思うんだけど」


こんなの無くても、俺はいつだって翔くんに会えるようになったんだ。
声を聞きたいと思えば電話をすればいいし、顔が見たいと思えば会いに行けばいい。


智「なのになんで外れないの」


翔くんの部屋の鏡だってやっぱりビクともしなかった。
ガチガチに固められたみたいに、壁にくっついて離れなかったんだ。


「外れないのは、外せないからじゃ」

智「はい?」

「外せないという事は、まだ必要だという事なんじゃ」

智「まだ必要…?」


俺と翔くんをくっつける為のモノだろ?
それならもう要らないじゃないか。


「猫化も、その鏡も。お前さんが本当に幸せを感じる事が出来たなら消える筈なんじゃよ」


幸せなのに。
これでもまだ足りないと言うのか。


「もう充分とでもいうつもりか?」

智「当たり前だよ。幸せすぎて堪んないよ?」

「ほぅ…」


ほんの少し沈黙を作ったじいちゃんは、急に俺に問う。


「それが、満足してる顔なのかの…?」


今だって翔くんの温もりを感じてきたところだ。
満足どころの話じゃない。


なのにどうしてじいちゃんは、不思議そうな声で俺に問うんだろう。




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