テキストサイズ

神様の願い事

第11章 オトコの役割

《sideN》



和「どしたのそれ」

雅「え?」


今日はレコーディングに来ていた。
まだ撮り終えてない相葉さんも少し遅れてやって来た。


和「ほらそれ。チョロチョロくっついてんじゃん」


俺に向かって歩いてくる相葉さんの足元には、黒い物体が付かず離れずチョロチョロとくっついて回って。


雅「あっおまえ。まだ着いてきてんのかよっ」

和「へ? 相葉さんが連れて来たんじゃないの?」

雅「違うよ、さっき歩いてたら目の前にぴょこっと現われてさ。んで、じっとこっち見るから」

和「相葉さんも見たんだ?」

雅「そ。しばらく見つめ合って。したら着いてきた」


着いてきたと言うその黒い物体とは猫の事で。


雅「もぅ、ダメだろ? ここはスタジオなんだよ?動物は禁止なの。わかる?」


頭を撫でて言い聞かせるそのくるくるした瞳はなんだか見覚えがあって。


和「…まさかと思うけど、大野さんじゃないよね?」

雅「えぇ?」


頭を撫でていたその小さな黒猫を両手に包み、相葉さんは俺の顔の前に近づけた。


雅「…違うでしょ。確かに目は似てるけど、これは違うコだよ」


相葉さんも俺に顔を寄せて一緒に黒猫の顔を覗き込んだ。


和「そうかなぁ…」

雅「そうだよ。ほらお前、違うよな? リーダーじゃないよな?」

「んにゃあ~」

雅「ほら、違うって」

和「オマエ猫語わかんのかよ」


猫語を理解したのかどうかは知らないけど、確かに大野さんがまた猫になってるってのもおかしな話ではあるんだ。


雅「だってもう治ったんでしょ?」

和「その筈だけど」

雅「だったらやっぱり違うよ。このコは別のコ」

和「だといいんだけど…」


人間の言葉も話さず、只“にゃあ”としか言わない。

ここは入っちゃ駄目なんだと追い出そうとしたって分かっているのかいないのか、ソファーにちょこんと座って出て行こうともしない。


雅「…仕方ないな。じゃあ、ぬいぐるみって事で」


空気を察したのか大人しいその猫は鳴き声も出さずに微動だにしなかった。

その猫は、しっかりと“ぬいぐるみ”を演じているんだ。


和「…大人しくしてるんだよ?」

「にゃ」


一見すればどう見たって猫だ。


それが只の猫である事を祈り、俺はレコーディング室へと足を運んだ。





ストーリーメニュー

TOPTOPへ