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神様の願い事

第11章 オトコの役割

《sideS》



翔「ちょっと待っててね、すぐ買ってくるから」

「にゃ」


スーパーの駐車場に停めた車の中に智くんを残し、俺は急いで店内に入った。

猫って何を食うんだっけ、そう言えば前は普通に弁当を食っていたな、なんて思いながら商品棚を漁る。


翔「いや~…でも唐揚げは重いかな」


だけどやっぱ身体は猫なんだし。
負担がかかっちゃいけないなと買い物は捗らない。


翔「まぁ、こんなモンだろ」


それで結局刺身を買った。
智くんだって好きだし、猫だって好きな筈だ。


翔「はい、着きましたよ~」

「にゃん♪」


やべえ、俺今デレてるな。
懐に抱えた智くんから目線を外しエレベーターの姿見に映すと、明らかにデレデレしている自分が居る。

猫になってしまった事にショックを隠せないと言うのになんだこの姿。
中身が智くんのこの猫が、可愛過ぎるから悪いんだ。
俺は決して喜んでいる訳では無いんだ。


ガチャ…


「…んにゃっ!」

翔「え?」


ドアを開けると俺から飛び降り、智くんは一目散にリビングへと駆け出した。


「にゃにゃにゃっ!」

翔「どっ、どうしたの、智くんっっ」


尻尾をピンと立て猛ダッシュする智くんの後を追いかける。
だけど小さくてすばしっこい智くんはなかなか捕まってくれず、俺はリビングへ転がり込むように入った。


「んにゃぁ~♪」


転がる俺を尻目に智くんがピョンと飛び乗ったのはテーブル。


翔「え、なにコレ…」


そのテーブルには、魚介類が綺麗に盛られた皿が並んでいた。


「にゃにゃっ♪」

翔「あ、ちょっ、駄目だよ勝手に食べたらっ」


え、俺、家間違ったか?
いや、でも俺の家だ。だって玄関には俺の靴が並んでいたし、ここに散らかっている資料も全て俺のだ。


翔「智くんってば、駄目だってっ」


考えを巡らせようと一瞬固まった隙に、智くんは皿をガチャガチャ鳴らせて刺身を頬張っていた。

そんなに腹が減っていたのかと可哀想になったが、でも身に覚えの無い料理。

毒でも入っていたら大変だと俺は智くんを抱え上げた。


その時。


智「呼んだ?」


背後から聞こえる柔らかい声。


翔「え…?」


振り向かなくても分かる。


智「ふふっ、なにやってんの?」



そのとぼけたような声は、あの人なんだ。





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