
神様の願い事
第11章 オトコの役割
翔「智くん…?」
智「うん?」
振り向くと、ふふっと笑った顔が見える。
翔「え、じゃあこの猫なに…」
智「猫?」
俺の懐で、思いっきり俺に噛み付いているこの猫はなんだ。
智「あれ? どうしたのこの猫」
翔「や、さっき見つけて…」
智「飼うの?」
翔「え…っと、その」
プルルル…
智「鳴ってるよ? 出ないの?」
翔「あ、うん」
え、なんだ? どういう事だ。
智「ほら、こっちおいで」
「にゃおうん♪」
スマホを探ろうとする俺の懐から智くんは猫を抱き上げた。
そして愛おしそうに笑うと、刺身をつまんでその猫に食べさせた。
翔「はい、もしも… は?」
智「ふふっ、おまえ可愛いなぁ」
翔「え?え? なに、どういう事?」
智「ほら、これも旨いんだぞ?」
翔「はぁっ? そうなの?」
智「ふふっ、ガッつくなって(笑)」
翔「なぁんだよ~…、え、今から? …オマエが来いってのっ!」
ガチャッ
智「ん?」
翔「はぁ…、ったく」
智「どうした? なにかあった?」
猫を小脇に抱え、智くんはきょとんとする。
翔「ごめんちょっと、出てくる…」
智「え? 今から?」
翔「うん」
智「もう遅いよ? どこいくの?」
翔「スタジオ…」
智「へ?」
小首を傾げる智くんから只の猫を引き取ると、“すぐ戻るから”と言い残し俺は家を出た。
なんだよ。只の猫じゃねえかバカヤロウ。
誰が智くんだって?
あ、俺か。勝手に勘違いしたのか。
翔「紛らわしいんだよ、可愛い顔しやがって…」
「んにゃ?」
睨み付けてやっても只の猫は限りなく可愛らしかった。
俺が勝手に間違えて勝手に連れて来て、そんで八つ当たりとか俺はなんて酷いヤツなんだ。
翔「名札かなんか付けとけよな、音撮りに来てたんだったらそう言えっての」
「にゃ?」
言える訳も無いか。だって猫だし。
翔「はぁ、ごめん。ちゃんと帰してやるから」
「にゃんっ」
安堵と情けなさとなんとも言えない脱力感の中で、俺はこの猫を動物タレント事務所のスタッフに返すべく車を走らせた。
