
神様の願い事
第11章 オトコの役割
頭をペコペコ下げてなんとか猫を返すと、俺はやっとの思いで家に辿り着いた。
翔「ただいま~…」
すると、さっき居た筈の智くんの気配が消えていた。
俺がこんなにも精神的に疲労困憊しているのは元はと言えばあの人だと我に返った。
あの人さえきちんと連絡を取れていたらこんな事にはなってなかったと。
その説明を求めようと帰ってきたのに居ないとは。
翔「智くん? 居ないの…?」
リビングの電気も消えているし、まさか本当に帰ってしまったのか。
ガタッ
翔「ん?」
寝室の方から聞こえた。
まさに今、鏡に潜ろうとしているのかもしれない。
翔「ちょっと待った」
智「あ」
パシッと手を掴んだら、案の定鏡に片足を突っ込んだ智くんが罰の悪そうな顔をした。
きっと怒られると思って逃げようとしたんだろう。
翔「ちょっとこっち、来て。話しよう」
智「ん…」
勝手に帰ろうとしてた割には聞き分けがいい。
智くんは俺に手を引かれ、大人しくリビングに舞い戻った。
翔「そこ、座って」
智「ハイ」
翔「まず最初に、今日は何してたの?」
智「釣りに行ってました」
翔「どうして連絡が取れないなんて事になったの?」
智「水没して…」
翔「予備の携帯は? ガラケーあったでしょ?」
智「それは陸に」
話を聞いていくと、アホ程簡単な謎が解けた。
智くんは消えたのではない。
のんびりと釣りを楽しんでいただけだった。
智「んで、陸に戻ってガラケー見たらマネージャーから鬼のような着信が」
翔「で、こんな騒ぎになってるとそこで初めて気付いたんだね?」
智「すいませんでした…」
罰の悪そうな顔でちんまりと座っている。
反省を述べて、申し訳なさそうな声を出して。
翔「も~…、っとに心配したんだよ?」
智「ごめん…」
翔「まぁ、無事で良かったよ(笑)」
酷く反省しているのか、未だに顔を上げない。
翔「これ戦利品でしょ? 食べよっか」
正座もまだ崩さないし、俺がそんなに怖かったのだろうか。
智「翔くん」
テーブルに向かう俺の背に声をかける。
その声は、トーンが低くて。
智「話って、それだけ…?」
不安そうなその声に景色が揺れた。
その声を境に、静まり返った部屋には何故か重い空気がのしかかったんだ。
