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神様の願い事

第11章 オトコの役割



“話ってそれだけ?”
それ以外に何があると言うのか。


翔「そうだけど…、なに?」


この重い空気が気のせいであればいいと、俺は智くんに向き直った。
だけどそれはやっぱり只の気のせいでは無かった。
俺が見た智くんは、思い詰めたような暗い表情をしていたんだ。


智「…さっきの猫、俺だと思って連れてきたんでしょ?」

翔「うん、まぁ…」


なんだ? それでどうしてこんな空気になるんだ。


智「それって、俺が猫になると思ってたからだよね…?」

翔「え…」


どうしてなっちゃったんだとは思ったけど、なるだろうとは思っていなかった。
だけど、不安ではあったんだ。
もしかしたらこんな日が来るかもしれないと、心のどこかにそんな気持ちを持っていたのかもしれない。


智「俺が治らないって、知ってたんじゃない?」

翔「治らない…?」

智「俺は、“幸せ”を掴めないから…」

翔「え、なに? なんの話してる?」


急に何を言い出すんだ。
幸せになれないって、戻らないってなんだ。


智「これ、見つけたんだけど…」


眉を潜める俺の前に、智くんは紙袋を差し出した。


智「廊下に落ちてたんだよ。さっき来た時は無かったのに、翔くんが出てったらあったから…。今、買ってきたって事でしょ?」


“これ”と差し出された小さな紙袋は、さっき相葉くんに渡されたものだった。


翔「あ…っ」


その中にはローションと、“エチケットだからね”とコンドームまでご丁寧に入れておいてくれたんだ。


智「誰か、いい人出来た…?」

翔「え?」

智「その人の為に買ったモノでしょ?」

翔「は? いや違う、違うって」


どうして誤解を解こうとするとこんなにも不自然になってしまうのか。
まるで図星を指されて焦っているように見える。


智「だって、俺とだったらこんなの要らないじゃん…」


ほらみろ。完全に誤解を産んでしまったじゃないか。


智「俺が猫になったら可哀想だから、だから翔くん俺の相手してくれてたんだよね?」

翔「何を言って」

智「自分の気持ち誤魔化してさ、俺に合わせてくれてたんでしょ?」

翔「ちが、そうじゃなくて…」


どうすれば素直に見えるんだ。

俺の本心を、どうやって表せば智くんに伝わるんだ。


こんな時、本当に神様が居ればいいのに。




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