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神様の願い事

第11章 オトコの役割

《sideS》



智「ごちそうさま」


タコは切れなかった。


翔「あ、俺やるよ。座ってて」


だからせめて皿洗いは俺が。


智「んふ、ありがと」

翔「いえいえ」


カチャリと控えめな音を立てて智くんは食器を運ぶ。
俺はスポンジを既に泡立てて準備は万端だ。


智「あ…」


持ってきてくれた皿を受け取った。
シンクに置こうとするその下に手を突っ込んで、ここに頂戴と。


翔「ん?」

智「あ、や、なんでも」


智くんの指に、俺の手が触れた。
只それだけなのに、何故か智くんはスッと手を引っ込めて。


智「じゃ、お願いします」

翔「うん」


どこか少し照れくさそうだった。


なんだろう。
そう言えば、瞳もうるうるしてた様な。

あ、タコの相手に少し酒を呑んだからかな。


翔「酔った?」

智「や、そんなに呑んでないよ」


カウンター越しに話しかけると、チラッとこっちを見て智くんは返答する。
確かに顔も赤くなってないし、見た感じも酔ってはいなさそうだ。


翔「熱でもある?」


智くんは普段から水分の多い潤んだ瞳をしてる。
だけど今日はそれよりもっとキラキラしてると言うか、うるうるなんだ。


智「ないよ」


とは言っても。
少し疑った俺は智くんの額に手を伸ばした。


翔「うーん?」


智くんの額だけじゃ分からないなと、自分の額にも手を張り付けて温度を感じ取る。


智「大丈夫だって(笑)」


俺が手を伸ばした時には一瞬目をまるくしたのに、今はその目を伏せてはにかむように笑っているし。

あ、これはアレだな。
何かを隠している時の表情だ。


翔「ん~… わかんねえな。ちょっと、おでこ」

智「え」


熱があるのに平気なフリして誤魔化してたんだろ。
そんなのに騙されるかっての。


翔「…あれ?」


智くんの頭を掴んで無理やり俺の額をくっつけた。
だけど明らかにそれは平熱で。


智「ね? ないでしょ…?」


表情すらも見えない至近距離で、智くんはその伏せた目を俺に向けた。
だから俺も、その瞳を見ようと眉を寄せた。


翔「…確かに、無いみたいだね…」


睫毛の擦れる距離で見たその瞳はやっぱり潤んでいるのに。

微かに俺にかかる息も、熱いのに。



風邪でなければ、一体なんの熱を帯びているというのか。





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