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神様の願い事

第11章 オトコの役割

《sideO》



智「ふー、危なかった…」


鏡に片足を突っ込むと、翔くんが後ろから何やら呟いた。
“いやいやちょっと”とコケそうになってた気がする。


智「ちょっと、悪い事したかな」


そんな事を口走ったのも分かるんだ。
俺が悪い。
自分の篭った熱を抑えきれなくてキスなんて迫ったもんだから。

そんで、“こりゃ止まんなくなっちゃうな”と我に返り、引き止める翔くんに気付かないフリをして帰ってきた。


「何をしたんじゃ?」

智「へ」

「悪い事って、なんじゃ?」

智「じいちゃん? いつ帰ってきたの」


“ついさっき”と答えるじいちゃんは、俺に何をやらかしたのかと問い詰める。


智「別にやらかした訳じゃないけどさ。ちょっと可哀想だったかなぁって」


んで、とりあえず説明をすると。


「あ~… そりゃ、可哀想じゃ」

智「やっぱり?」

「お主が火を付けておいて消してやらんとは情けない」

智「だあってさぁ…」


いやだって、そんなんしたら帰りたくなくなっちゃうし。
やっぱり俺は、あの温もりが好きなんだ。
翔くんの腕の中の、あの心地好い温もり。
それに包まれて眠りたくなってしまうから。


「それなら泊まればよかろう」

智「駄目だよ。翔くんは忙しいんだから」


あんな鬼スケジュールで、疲れてない筈が無いんだ。
仕事の準備だっていろいろあるだろうし。あんな新聞の山、一晩かかったって読めやしない。


「お前さんなら読めないじゃろうけど」

智「翔くんならイケるって?」

「そりゃあ」

智「バカ。超人じゃないんだよ? 毎日の努力があっての事なんだから」


翔くんはカッコいいんだ。
昔からそうだ。
勉強家だし、真面目だし。
俺には到底出来ない事も、翔くんはちゃんとやれる。


「邪魔しちゃ悪いと思って帰ってきたと?」

智「そう」

「…のわりに、残念そうな顔をしておるな?」

智「え?」

「したかったんじゃろ? えっち♪」

智「…るさいなっ」


このオバケ、何をしに帰ってきたのか。
俺の本心を暴いて怒らせに来たんだろうか。


「戻るのか?」

智「風呂に入るだけだよっ」


翔くんも今頃風呂に入ってるかな。

風呂に入って、ブツブツと文句を言いながら頭を冷やしているかもしれない。


それなら俺も、熱の篭った身体を冷やそうか。



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