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神様の願い事

第11章 オトコの役割




智「ふぅ…」

「眠れないのか?」


ベッドに篭ってからどれだけ時間が経ったのか、未だ俺は寝付けなかった。


「ほら、悶々してるから」

智「違うし」


悶々してる訳じゃないけど、目を閉じると翔くんが浮かんで。
俺の脳内で自由に動き回って騒がしいんだ。


智「なんか恋しいっていうか、顔見たいなぁって…」

「さっき見たばかりじゃろ?」

智「それは、そうなんだけど」

「我慢なんかして帰って来るからじゃこの阿呆が」

智「も~ うっさいな…」

「行けばいいのに。コレがあるじゃろ」


“コレ”とは鏡の事で。
実に便利な道具だろうと言う。


智「こんな時間に迷惑」

「寝顔見るだけなら迷惑もかからんのでは?」

智「寝顔?」

「切り替えの出来る男じゃ。今頃は新聞も読み終えて明日に備えて寝てるじゃろ」


なるほど。その手があったか。








智「おじゃましま~す…」


音を立てないようにと足場を慎重に確認し、そろりと翔くんの部屋へ降り立つ。
寝室は真っ暗で何も見えない。


翔「ンゴ、ゴゴゴ…」

智「ぷっ」


真っ暗な中に響き渡る怒号のいびき。
一瞬吹きそうになったがそれをなんとか堪え、いびきを頼りに翔くんの傍に辿り着いた。


智「はは、爆睡だな…」


暗闇にも慣れ、うっすらと姿が浮かび上がる。
スヤスヤとそれはそれは気持ちよさそうだ。


智「やっぱ疲れてんじゃん(笑)」


スヤスヤの合間でたまに響く大きないびき。
それは疲労を表していた。


智「…翔くん、毎日お疲れ様」


疲れきっているのが目に見えて、それが可哀想で癒してやりたくて。
思わずサラリと揺れる髪を撫でた。


翔「ん…? 智くん…?」

智「あ」


やば。折角寝てたのに起こしちゃったか。


翔「あれ…? 夢、かな…」


幸いにも寝惚けているようだ。


智「夢だよ」

翔「だったら、帰らないね…」

智「え?」

翔「一緒に寝よ? 抱っこしたい」


翔くんは俺をグイッと引っ張って。
ぽふっとその懐に転がった。


翔「ふ、きもちい…」


俺をぎゅっと抱き締めて、また寝息を立て始めた。

離れる事だって出来たけど、やっぱりこの温もりは気持ちいいし。


智「ん、おやすみ…」


だからちょっと俺も、ぎゅっとしがみついてやったんだ。





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