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神様の願い事

第12章 “好き”の向こう

《side爺》



ワシはたまに元の時空に戻る。

たまに戻っては、空をふらふらと彷徨い“皆はどうしてるかな、元気にやってるかな”と覗き見に繰り出す。



翔「あ、れ…? 智、くん…?」


こっちから覗いているだけで向こうには見えていなかった筈の姿が翔くんの目に映った。


智「ワシが、見えるのかの…?」

翔「ふふっ、なんだよその喋り方…」


ベッドで休んでいる翔くんは、すっかりおじいさんで。


智「あ…、ふふ、ちょっとね」


形を成さない俺が見えるという事は、それ程死期が迫っているという事なんだろう。


翔「約束、守ってくれたんだ」

智「え?」

翔「俺が死ぬ時、迎えに来てってヤツ」


笑顔で話す翔くんは、輝きを失わない。
だけど自分がそろそろだと、翔くんも気付いているようだ。


智「まだ、死なないよ」

翔「そうなの?」

智「そうだよ(笑)」

翔「じゃあどうして…?」


質問を繰り出す表情じゃないんだ。
ニコニコして、会えて嬉しい事がよく分かる。


智「俺が、翔くんに会いたかっただけだよ」

翔「だから、待ちきれなくて来ちゃったの…?」


暇が出来ては覗きに来てたのに。
翔くんの顔なんて、しょっちゅう見てるのに。


翔「泣いてる…?」


だけど翔くんの瞳が、俺を捉えるところとか。


智「いや、翔くんだなぁって…、嬉しくて…」


そうだ、俺達はこんな会話もした事が無かった。


翔「俺もだよ。会えて、嬉しい」

智「うん…」


好きだなんて、死ぬ間際にちょこっと漏らしただけなんだ。


翔「早くソッチに行って、智くんとずっと一緒に居たいよ」

智「ふふ、急いじゃ駄目だよ」

翔「そうだけどさ…」


俺と一緒に居れなくて拗ねるとか、そんな顔、もっともっと見たかったんだ。


智「その時は、ちゃんと迎えに来るから」

翔「絶対だよ?」

智「うん、約束する」

翔「もし他のヤツが来たら、俺成仏しないから」

智「ええ?」

翔「地縛霊になってやる(笑)」


好きな人と、“好き”の気持ちを隠さずに会話をする。
それだけでどんなに幸せな事か。


智「大丈夫、必ず来る」


この気持ちを、まだ若かりし俺達に気付かせたい。


俺達がビビって果たせなかった愛を、あいつらに。


そう願うのは、俺の自己満足だろうか。




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