
神様の願い事
第12章 “好き”の向こう
智「…翔くん、何か飲むもの貰っていい?」
翔「あ、うん」
自宅の廊下を後ろからついてきて、やはりぼそっと声を放つ。
翔「ビールとコーヒー、あと水ならあるけど」
智「んじゃ水」
うたた寝をしていた智くんは余程喉が乾いていたのか、コップを差し出すと喉をグビグビと鳴らして水を飲み干した。
智「っはぁ、美味しかった」
“生き返った”と言わんばかりに智くんは目をぱちくりとさせているけど、俺はその水を飲む姿にさえも動揺していた。
男の象徴とも言える尖った喉仏が水を通す度に上下して、そこになんとも言えない妖艶さが見て取れた。
智「ん? なに?」
翔「あ、いや。喉仏、いいなって思って…」
智「いいな?」
翔「ほら俺、喉仏無いから」
智「ふふっ、無いって事ないでしょ(笑)」
笑いながら智くんはおもむろにコップを置いて。
コトンと音が鳴ったと思ったら、俺の鼻に微かな甘い香りが漂う。
翔「…っ?」
ふんわりと髪をなびかせ、俺の喉元に吸い付く。
首筋じゃなくて、本来喉仏があるであろう場所に柔らかく吸い付いたんだ。
智「…ほら、あるよ?」
翔「え?」
智「喉仏。見えないだけで、ちゃんとある」
唇で挟むように、舌で包むようにその感触を確かめる。
ゴツゴツとした喉の突起を見付けると、智くんの唇はいやらしい水音を響かせた。
智「…疲れたでしょ。風呂、入ってくれば?」
俺の首にしゃぶりつきながら、智くんはシャツの裾から手を差し込んだ。
その手で俺の少し汗ばんだ背を撫でて、ふふっと鼻で笑うんだ。
智「毎日忙しいのにあんな距離運転するからじゃん(笑)」
翔「え?」
智「汗かいてるよ? 早く風呂入って寝る準備しよう」
俺はてっきり智くんの“スイッチ”が入ったんだと思った。
智「ほら早く(笑)」
翔「あ、うん」
だけどそうでも無かったみたいだ。
トロンとした目は俺を誘ってるんじゃなくて、ただ眠いだけのようだったから。
